第3話 小さな教会
草原を歩く事一時間、ようやく目的地である目立つ教会に着いた。
だが、そこで俺が目にしたのは………。
「酷でぇな、こりゃ。」
教会の建物の周りには、無数の男たちの生首、それらが槍などの棒状の物で貫かれた状態で掲げられて放置されている光景だった。
「この人たちは一体?」
兎に角、俺は両手を合わせて合掌した。
「安らかに眠れよ。」
ふーむ、なにか知らんが、良くない事が起きている感じだな。
教会の周りにこんなモノがあるなんて、普通じゃないな。
取り敢えずは、目の前の教会に足を運ぶ事にした。
扉を少し開き、恐る恐る中の様子を確かめる。
「こんちはー。」
教会の建物の中は至って普通の部屋のようだ、奥には祭壇があり、その手前に長椅子が並べられている。
更に奥の壁辺りには、女神像が納まっていたのだが。
「これも酷いな。」
白磁色で出来た女神像は、何かの汚物や剣などで傷つけられていて、汚らしいという印象がまず頭をよぎる。
「本来は綺麗な女神像なんだろうな、残念だよ、まったく。」
俺が独り言をつぶやいたその時、横の通路から足音と共に声を掛けられた。
「どなたでしょうか?」
その声は恐る恐るといった感じで、とてもビクビクしている様子が窺えた。
「これは失礼、自分はよそ者で、草原を歩いていたらこちらの教会が目に入ったので、寄らせて頂きました。」
「まあ、そうだったのですか。当教会へようこそ。なにもおもてなし出来ませんが、ごゆるりとお寛ぎ下さい。」
「ありがとうございます、ところで、ここはどのあたりになりましょうか?」
兎に角、情報を得なければ何も始まらん。このシスターさんから何か訊いてみよう。
「他所から来られた方ですよね、でしたらあまりここには滞在しない方がよろしいかと。」
「それは………どうしてでしょうか?」
シスターさんは暗い表情をしていて、見るに堪えない弱々しい姿勢をしている。
「この教会はかつて、オーディンを称えた女神フレイヤ様の教えを広める為の教会だったのですが。」
ふむ、オーディンにフレイヤか、やはりこの世界は俺が知っている「堕ちた戦乙女」の異世界だな。
その事が解っただけでも、有益な情報だ。間違いなくここは俺が知っている異世界だな。
しかし、気になるワードが出て来た。
「だった? 過去形ですか?」
「はい、それはもう、過去の事で御座います。」
シスターさんは俯き、力無く項垂れていた。
「もしよろしければ、事情をお聞かせ願いませんか? この有様は一体?」
俺が尋ねると、シスターさんはブルブルと震え出し、両腕を自身の身体を抱き寄せて、今にも泣き出しそうな表情で語ってくれた。
「あれは、世にも恐ろしい事でございました………。」
俺はシスターさんが震えながら語ってくれた事を、黙って聞いていた。
シスターさんの話を要約すると、こうだ。
三年前、ここ聖ルイズ王国に突如魔物の大攻勢があり、人類は戦い続け、約一年間戦が続いたそうな。
で、その時女神フレイヤの御遣い、ヴァルキリーが現れ、魔物のオーク共をばったばったと薙ぎ倒していたらしい。
人々はヴァルキリーの存在に希望の光を見出し、共に戦い続けていた。
だがそれから一年後、女神フレイヤがオーク共に捕まり、肉奴隷にされたらしい。
性欲が強いオークに掛かっては、さしもの女神も女である事を理解したとの事らしい。
で、ヴァルキリーは指輪に神の力を宿した事で力を発揮出来ていたので戦えたのだが、それを奪われ、ヴァルキリーもまた、女として捕まり、凌辱され続けているらしい。
女神フレイヤは既にオークの「いちもつ」の虜となり、ヴァルキリーの指輪の力を解除してしまい、ただの乙女にしてしまったらしい。
「酷い話もあったものですね。」
「はい、ですが、それを黙って見過ごす男達ではありませんでした。」
女神やヴァルキリーを失った聖ルイズ王国軍の兵士たちは、戦い続けていたものの、やはり女神が捕らわれた事がショックだったのか、徐々に負けていったらしい。
それで、戦いの結果、人類側は敗北し、オーク共魔物が支配する国が誕生したという結果になったという事だな。
「やれやれ、大変な事態に陥ったみたいですな。」
「あなたは他人事かもしれませんが、わたくし達にとってはフレイヤ様もヴァルキリー様も捕らわれた状況では、まさに手も足も出ないのです。」
なるほどね、それで見せしめの為に魔物たちが表の男達の首を晒している訳か。
ふーむ、なんだか聞いていて胸糞が悪くなってきたな。
ゲームのモニター越しだと「うひょー!」という感じだが、いざ実際にリアルとして現実を目の当たりにすると、こうも憤りを感じるモノだとは。
「ですので、あなたは早くここを立ち去られた方がよろしいかと。」
「残念ですが、それは叶わないかもしれません。」
「えっ!?」
解る、俺には解る、今この教会の周りに魔物の気配のようなモノが感じられる事を。
「こりゃ、黙って見過ごしては貰えないだろうな。」
「ま、また来たのですか、魔物が私を辱めに………。」
どうやら魔物の狙いは俺じゃなく、こちらのシスターさんらしい。
さて、どうしたもんか。
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