第39話 決着
ちゅどぉおおおおおおおおん!!
「おぼぁああああああああああッ!?」
「ひゃああああああああああんッ!?」
灰色の爆光に呑み込まれ、俺たちはわけがわからないまま開いた空間の穴へと吸い込まれていった。
力の制御には技術や術式も必要だが、イメージすることが最も重要だとアンネリーゼは教えてくれた。そしてその通りにやった結果がこれである。
「お前ふざけんなよだから不確定要素だって言ったじゃねえか!?」
「だって術式なんだから力込めるのが普通でしょ!? ダタオミが込めすぎたのよ!?」
「込めなくても発動するんだからたぶん周囲から自動で供給される仕組みが備わってたんだよ元々!? あと初心者にぶっつけ本番で慣れないファンタジーやらせるな!?」
「でもほら、脱出はできたでしょ? 結果オーライってことで」
「余計なことしなけりゃもっと平和的に脱出できたと思います!」
周囲を見回せば、そこは間違いなくアンネリーゼの部屋だった。窓から見える暗黒魔界の空と街並み、後ろに黒々と佇む俺たちがさっきまで入っていた暗黒のドーム。
そして――
「やってくれましたね、生ゴミ」
「先輩! よかったです、無事で」
悔しそうに奥歯を噛み締めるロロットと、満身創痍で床に膝をつく紗那の姿もあった。
どうやら紗那はロロットが追いかけないように守ってくれていたようだ。ミノタウロスとも戦いながらだろうから、相当に無理をしてくれたんだろうな。
「ロロット、あなた、自分がなにしたのかわかってるわよね?」
そんな紗那の状態にアンネリーゼは表情を険しくし、キッ! とロロットを睥睨した。
「当然です、アンネリーゼ様。このロロット、いかような罰でも受ける覚悟はできております。ですが――」
ロロットの視線がアンネリーゼからシフトした。宙空に出現した魔法陣から暗黒の槍が射出される。狙いは――俺だ。
「その生ゴミの存在だけはアンネリーゼ様にとって悪影響しかありません! 奴だけでも排除させていただきます!」
「あたしの記憶を奪おうとしただけじゃなく、タダオミまで傷つけるってこと? ふぅん、そう? なるほどね」
ロロットの槍はアンネリーゼが溜息混じりに放った暗黒弾に弾かれ、呆気なく消滅した。
「あたしのためを想って行動してくれるのは嬉しいけれど――そんなことをすればあたしは一生あなたを許さない!」
パチン、と。
アンネリーゼがフィンガースナップ。瞬間、とてつもない重圧場が発生し、横から俺を襲おうとしていたミノタウロスを一瞬で肉片も残さず磨り潰した。
つ、つえぇ……。
「あ、あの悪魔が、たったの一撃で……」
俺は当然として、ミノタウロスに苦戦していた紗那も驚愕する。公園で紗那と戦った時にはこれほどの威力はなかった。俺と出会った時もなかなかのノーコンぶりを発揮してたってのに……暗黒魔界においてアンネリーゼがどれほど規格外か、その一端を垣間見た気がするな。
「しかし、アンネリーゼ様、あちらの世界は危険です」
アンネリーゼに敵認定されたロロットが焦ったように鉄仮面を崩した。
「だから? こっちでも『危険だから』って自由にさせてもらえないじゃない」
「あのような姿を晒して、ご友人を作ることももはやできないと思いますよ?」
「それはなんとかなったらしいわ」
アンネリーゼが俺を見たので、コクリと頷いた。
ぐっとロロットの顔が引き攣る。
「危険かどうかなんて関係ないわ。何度燃やされたって諦めない。あたしが知らない世界。あたしを知らない世界。そこで〝特別〟を捨てて〝普通〟を手に入れるって決めたの! だからまずは〝普通〟に友達を作るわ!」
「本気ですか?」
「本気よ!」
睨み合う二人。
割り込む余裕も口を挟む隙もない。俺は黙って見守ることしかできそうにないな。
「ならば、戦争になります。私も本気でアンネリーゼ様をお止めするしかありません」
ロロットの周囲から――わらわら、と。多種雑多な魔物が湯水のように湧き出てきやがった。マジかこいつ。どいつもこいつもミノタウロスと同等かそれ以上に強そうな怪物たちだぞ。
「あいつどんだけ魔物と契約してるんだ!?」
「これほどの悪魔が一斉に……騎士団でも部隊を編成して対処する案件ですよ!?」
戦慄する。これじゃ本当に戦争だぞ。
だが――
「あら、ロロット、正面から戦ってあたしに勝てると思ってるの?」
今度もまた、一瞬だった。
アンネリーゼの周囲に展開された五つの魔法陣から純黒の光線が放射され、屈強な魔物の群れを紙切れのように蒸発させてしまったのだ。
バリン! と。ガラスが砕けるような音。
どうやら、ロロットが張っていた隠蔽の結界もぶっ壊れたみたいだな。
外の音が聞こえ始める。言葉はわからないが、恐らくアンネリーゼが乱心したとかそんな感じの騒ぎになっているんだろう。
「……まあ、こうなりますね」
ロロットは負けを認めたように肩を落とし、両手を挙げた。最初からアンネリーゼに数で太刀打ちしても無駄だということはわかっていたようだな。
「説得の余地はありませんか?」
「ないわね」
打てば響くようにアンネリーゼは即答。
「あたしに協力しなさい、ロロット。それで今回の件は許してあげるわ」
「……」
ロロットは沈黙する。アンネリーゼはなにを言っても聞かないだろうな。
それを悟ったのか、ロロットは吹っ切れたように深く長い溜息を吐き出した。
「承知いたしました。これより私はフィンスターニス家よりもアンネリーゼ様の命令を優先いたします」
姿勢を正し、ロロットは恭しく頭を下げた。
「癪ですが、そこの生ゴミにも言われましたし」
「ふふっ、それでいいのよ」
「なあ、アンネリーゼ、こいつの俺に対する呼称も直すように命令してくれないか?」
ロロットを煽るためとはいえ、感情に任せて『アンネリーゼを応援するべきだ』的なことを口走ったからなぁ。今になって思えばけっこう恥ずかしいこと言ってないか俺?
「あとね、ロロット。『危険だから』って理由ももうすぐ解決するわよ」
「……どういうことでしょうか?」
「天気がよければすぐにでも『実験』したいわね」
「『実験』……ですか?」
アンネリーゼの意味深な言葉にロロットは怪訝そうに問い返す。なにそれ俺も聞いてないんですけど?
「ね、タダオミ♪」
「お、おう。ソウダネ」
ね、とか言われても困る。テキトーに相槌してしまったが、帰ったら俺は一体なにをさせられるんだ?
なんというか、今から不安でいっぱいだった。
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