手紙

「 」リック

『 』主人公


「よお、公爵家での暮らしはどうだ?男爵のおばさんは元気かい?俺はやっと狩人協会に入れたんだ!といってもまだ木の実を取るくらいしかできないけどな。お前も狩人やりたいって言ってたけど、公爵子息様はもう狩人なんてやりたくないか?」


『リックへ

手紙ありがとう。僕は男爵家に戻りたいよ。

公爵家に来る前からだけど、侍女長様が僕に鞭打ちしてくるんだ。失敗してもしなくてもね。まあ傷はその都度治されているから良い方なのかも?食事は男爵家にいた頃よりもっと酷くなっちゃった。

母様は元気だよ。いつも幸せそうな声が聞こえてくる。侍女長様に、母様のことは公爵夫人、お父様のことは閣下、お兄様のことは小公爵様って呼びなさいって言われたから、もう母様とは呼べないけどね。

そして、風魔法が覚醒したんだ!

ねえ、狩人協会に登録する手助けをしてくれない?このままじゃ餓死しちゃうよ』


「風魔法?すごいじゃないか!火魔法の俺とならすぐに一流の狩人になれるだろうよ!手助けはもちろんするよ!

でもよ、公爵家からお金は貰えないのか?貴族って豪遊してる印象があるが、そんなに貧乏なのか?」


『僕は公爵家の血を継いでいないからね。小公爵様や公爵夫人のようにはいかないよ。

それに僕の物も一つもない。この前もらった誕生日プレゼントもいつの間にか消えてるし、服もお古のものが数着だけだ。

父様の指輪だけは死守してるけど、いつか盗られそうなんだよね。』



「今日もすごい稼ぎだったな。でもまた孤児院に全部渡しちゃったらしいじゃねえか。お前はバカだよ。もっと欲張れ!もっと食え!」


『僕はちゃんと食べてるし、僕のお金をどうするかは僕の勝手だろ?いつも心配してくれてありがとう。

そして、リックにだけ言いたいことがあるんだ。

実は僕、病気らしいんだ。薬屋の爺さまが言うには心の臓の病気で、あと4年しか生きられないらしい。僕は高い薬を買えないし、これ以上生きる気力もない。だから、僕の死後、僕をあの教会に入れてほしいんだ。これはリックにしか頼めない。報酬は父様の指輪でどうかな?』


「え⁉︎お前そんな素振り、、

分かった。お前の意思は継ぐ。約束だ。

でもお前のおばさんには話さないのか?薬も公爵家なら用意できるんじゃないか?」


『言ったさ!閣下にも夫人にも小公爵様にも何度も手紙を出した。直接は会ってくれないからね。でもみんな無反応。

もう母様は「僕の母親の男爵様」じゃなくて「公女の母親の公爵夫人」なんだよ。僕が消えたほうが都合がいいらしい。僕は男爵家の継承権も公爵家の継承権も消されたしね。死んでも困らないのだろうよ。』


「そんな…。


分かった。お前の言う通りにする。絶対。

でももう侍女も来ないんだろ?死んでも発見されないんじゃないか?

なあ、家に来ないか?お前を看取ってやりたいんだ。」


『ありがとう。でも君に迷惑はかけられないよ。これでもまだ公爵令息らしいからね、君が僕を誘拐したとか言われるかもしれない。そんなことさせたくないんだ。

侍女は3日に一回くらい水を持ってくるよ。遺言書持っていれば流石に気づくんじゃないかな。掃除と洗濯ができる公爵令息なんて僕ぐらいなんじゃない?』


「笑えない冗談だ。

お前がそれでいいならなにも言わない。もう手紙も出さない方がいいよな?

最後に明日会おう。さよならを言いたいんだ。ゆっくりでいいからさ。」

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