七不思議怪-3

「いやー君たちが来てくれて助かったよ。ちょうど家庭の都合で二人キャンセルがきたところだったから!」


 PTA会長の厚井あついさんは豪快に大声で笑う。

 あだ名は熱血おじさんだと夏見に聞いた。

 たしかに熱いと思った。


「はーいよろしくお願いします!」


 夏見が笑顔満開でそう言う。


「よろしくお願いします……」

「よろしくお願いします」


 僕と佐伯も頭を下げてあいさつする。


「じゃ、俺はあっちにいるからなにかあったら声をかけてくれ」


 さわやかにそう言って去って行った。


「……ていうかお前は最初から参加だったんだろ。なんで俺たちといっしょにあいさつしてるんだよ」


 ジトッとした目で佐伯は夏見を見る。


「細かいことは気にしなーい」


 ステップを踏みそうな勢いで夏見はニコニコしている。

 僕はそれを生暖かい目で見るしかなかった。



「よしっ、チャンス」


 みんなでカレーを作って食べ終わったあと、夏見は足音を消して校舎に近づいていった。

 佐伯と僕もその後ろから足を忍ばせて歩く。


「おいヤバいんじゃないか。あとで点呼とられるんだろ」

「晩ご飯の後はみんなそれぞれ後片付けしているから大丈夫だよ。備品とかは校内に置いてあるものもあるし、戻しにきたフリをすればいいの」


 つまり、これから僕らは学校に侵入するという悪いことをすることに加えて後片付けもサボってしまったわけか。

 参加者のみんなに申し訳ない気持ちだった。


「よし、潜入成功」


 廊下に面した横開きのドアから猫のようにスルリと夏見は中に入った。

 佐伯と僕も続く。


「だ、大丈夫かな……」

「いいか、就寝の時間までには出るぞ」

「わかってるって」


 こわがる僕に険しい顔をした佐伯、軽い口調の夏見と三者三様の態度だった。


「はい、ミニ懐中電灯」


 夏見は僕と佐伯に手に収まるくらいの懐中電灯をくれた。


「じゃあこれから楽しいツアーのはじまりはじまり」


 そう言って夏見は自分の顔を下から照らした。


「わっ」


 その迫力に僕はのけぞってしまう。

 夏見は笑った。


「あはは、めぐむくんって本当にこわがりなんだね」


 軽い足取りで夏見は歩いていく。


「ドンマイ」


 佐伯が僕の肩をたたいた。

 からかわれてる……。

 先が思いやられるな。



「どこから回ろうかな……」


 夏見が言う。

 そこは無計画らしい。


「順番に一階からにしたらどうだ?」

「一階ってあんまりないんだよね。図工室も音楽室も三階だし」


 夏見は玄関のほうに回る。

 ちょうど中庭とは反対だ。


「おい、待てよ」


 早足の夏見に、僕と佐伯もあわてて追いつく。


「あれが、人差し指が欠けた像」


 夏見が玄関前にそびえ立つ像を指差す。

 石でできた像のようだ。

 像は何かを示すように、人差し指を上に向けている。

 たしかに人差し指が短いように見えなくもない。


「昔に、人差し指を折った人がいて、その人差し指を探して像が夜中になると校舎を歩き回っているって話」


 こわい。

 夜の校舎で動く像に出くわしたくなんかない。


「あの像はどこを指差しているんだろう……?」

「未来へ向かうってメッセージじゃないか?」

「そんな話じゃない説もあるらしいよ」


 夏見が言う。


「どういうこと?」

「なんでも異界の位置を示しているとか、隕石が落ちてくる方向を指しているとか」

「こわっ……」

「あくまで噂にすぎないんだろ」


 佐伯が呆れたように言う。


「そうだけどー」

「とにかく今夜像は動いてないみたいだな。次行くぞ、次」


 佐伯は早く切り上げたがっているようだった。

 できれば僕もそうしたい。


「じゃ、えーっと次はね」


 夏見は言う。


「階段!一段階段が増えてる西階段に行こ!」

「バカ、大きな声出すな」


 僕と佐伯があわてて口をふさぐ。


「えへへ、ごめん」


 てへ、というように舌を出す。

 全く悪いと思っていないようだ。



「ここです!一段階段が増えている西階段」


 そこに着くと夏見が言った。


「で、どこの階段が増えているって?」


 佐伯が言うと階段をかけ上がりながら夏見は言った。


「三階から屋上の間!はやくはやく」


 急かすので僕と佐伯も頑張ってのぼる。

 三階に着くと夏見が言った。


「じゃみんなで声出して数えてみよう」


 一段、二段と数えながらのぼる。

 階段は全部で十一段あった。


「十一だな」


 佐伯が階下を見る。 

 何かあるのかと思ったが僕には何を見ているかわからなかった。


「じゃあ次はおりてみるぞ」


 そう言ったのはなんと佐伯だった。


「え、らしくないじゃん佐伯!やっと七不思議信じる気になった?」

「いいから早く」


 佐伯が不機嫌になりそうだったので、僕と夏見はならんで階段をおりはじめた。

 一段、二段……。


「あれ、十段……?」


 僕は固まる。

 声を出しながらおりてきたのに階段は十段しかなかった。


「え、ええっと」


 数えてみると階段はちゃんと十一段ある。


「やったー!やっぱり本物なんだよ」


 夏見のテンションが上がる。


「ええ……。これもお化けの仕業?」


 僕はこわがりながらも、少し地味だなと思う。


「これで信じたでしょ?めぐむくんも佐伯も」

「いや、この話はウソだぞ」


 佐伯があっさり言う。


「ウソってなに?今いっしょに数えておりてきたじゃん」

「夏見、ここで見てるからお前だけ数えておりてきてみろ」

「ええー!なにそれ」


 夏見は不満そうな顔をする。

 僕も佐伯が何の目的があってそんなことを言うのかわからなかった。


「わかったよ」


 夏見が数えておりてくる。

 戻ってきて、不満そうに佐伯を見ながら言った。


「ほら、ちゃんと十段だったでしょ?」

「やっぱりな」


 佐伯がうなずく。


「夏見、お前最初の段とばしてるだろ」

「え?どういうこと」


 僕もなんとなくだけど気づいた。


「だからお前は最初の段をただの地面としてみてるってことだよ。そこがゼロ段になるから、数が減るのは当たり前だ」


 夏見は最初首を傾げていたが何度か階段をのぼりさがりした。


「本当だ……!」


そして落ちこんだように顔を下げて座りこむ。

さすがに僕もかわいそうになるとガバッと首を上げた。


「でも今までみんなきづかなかったなんておかしくない?」

「まあそんなもんだろ。七不思議なんて」


佐伯は軽く言って、だから言っただろみたいな目で夏見を見下ろした。


「これでわかったな」

「むー。佐伯が頭が固いガンコものだってことはよくわかった」

「この調子で残りもさっさと見ていくぞ」


さっさと方向転換して佐伯は言う。


「次はどこに行くんだ?」

「三階」


少し怒った口調で夏見は言った。

佐伯はさっさと階段をのぼっていく。


「あの……。夏見」


僕はフォローの声をかけようとする。

夏見は先を歩く佐伯を見上げながら言った。


「見てなよ!次は佐伯に参りましたって言わせてやるから」


なんか目的変わってない?

そう思うのは僕だけだろうか。

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