弘法筆を選ばず、剣士剣を選ばず

「オヤっさん……いいの入ったか?」

「こう頻繁に壊されちゃな……いくつか入荷しちゃいるが、あんま数はねぇぞ」

「間に合わせでいい」

「その間に合せを次々ぶっ壊すからいつも武器不足なんだろがぃ……ちょっとまってろ」

「いつもすまんな」

「いい加減慣れっこだよ、お前さんの世話も」



 ✕✕✕



「これは?」

「〝鉄板〟。職人が叩きに叩き上げた、強靭な鉄の板に棒を溶接しただけの、武器と呼ぶのもおこがましい一品だ」

「振ってみても?」

「ああ。店のモン壊さねぇ限りはな」

「ああ、いい重さだ」ブォンブォン

「利点は硬ぇこととでけぇこと。それでモンスターぶっ叩き続けりゃ凹みも曲がりもするだろうが、元々切れ味なんてねぇも同然。鈍器として当分使い続けられんだろ」

「ああ。これにしよう」

「毎度あり。他にも見てくか?」

「ああ。予備はいくらあってもいい」

「そんなこと言うのぁお前さんくらいのもんだけどな」



 ✕✕✕



「これは?」

「魔導具〝雷鳴剣〟。獲物に突き刺すと剣先から体内に雷魔法が迸るってもんで、捕獲にゃもってこいってハナシだ。値は張るがな」

「生け捕りの依頼は受けない。が、雷か。動きを止めるのに良さそうだ」

「自分まで感電しねえようにな」

「心得ている」



 ✕✕✕



「これは?」

「こいつも魔導具〝焼き槍ローストスピア〟。突き刺した獲物をいい感じの火加減で焼き上げてくれるっつう、まあ調理器具だな」

「いだたいていこう」

「あんま武器にゃならねえぞ……ついでにこいつもどうだ? 〝醤油刺し〟。刺した対象を醤油味にしてくれるっつう短剣なんだが」

「それもいただこう」

「お前さんはホントにいい上客だよ」



 ✕✕✕



「こんなものか……もう一本くらい、切れ味のあるものも欲しかったのだがな」

「切れ味ならとんでもねえモンがあるぜ?」

「どれだ」

「〝羽のレイピア〟。子どもでも目にも留まらぬ神速の刺突が繰り出せるっつう、アホほど軽い魔剣さ」

「そんなに軽いとすぐ折れるんじゃないか?」

「耐久力は確かに高くねぇな。だがこいつぁ、上手く使えば一撃必殺が放てんのさ」

「ほう」

「こいつには、『遅く振れば振るほど斬撃の威力と範囲を拡張する』っつー魔法がかかってて――」

「買った」

「まいど。遅く振りすぎて一振りでぶっ壊すなよ」

「善処する」



 ✕✕✕



 買い物を終えた剣士が向かったのは、最近発見された新たなダンジョン。

 蠢く多種多様な竜種のみが確認され、『竜のゆりかご』と名付けられたそこは、文句なしの最難関ダンジョンだった。


 その奥地、ウロコの硬度やスタミナがどの竜種よりも優れているとされるニビイロドラゴンの前に、彼は立つ。


 振るうのは〝鉄板〟。

 衝突するたびに激しい轟音をかき鳴らし、火花を散らす。


 〝鉄板〟は歪み、しかし竜は傷つかず。


 武器が折れたときが最後だと、賢い竜は笑みを漏らす。


 しかし剣士は、揺るがなかった。


 何度も、何度も。

 〝鉄板〟を硬い鱗に叩き込み続ける。


 次第に歪んだ〝鉄板〟が、姿を変えていく。

 鉄の板から、乱暴に研ぎ澄まされた剣へ。


 立たなかったが、形成されていく――!


 一際大きな衝突音が鳴った。


 竜の目が驚愕に見開かれる。


 たった一枚。されど一枚。

 重い鉄の塊を受け続けた鱗が――割れた。


「ヴォロアァァァァ!!」


 怒りのままに放たれるブレス。

 鉄の塊を赤く染め上げる。


 熱され柔らかくなった剣はもはや武器の体を為すまい。


 それは油断。緩んだ思考の隙間から、目の前に赤く熱された鉄の塊が飛んでくる。


「ッ!?」


 竜は避けた。


 受けようがなんのダメージもないはずの鉄塊を。


 明らかに生まれた隙。

 剣士は肉薄する。

 砕けた鱗へ。そして――


 紫電が竜の身体を舐めた。


「!!?!?!?」


 どれだけ鱗が硬かろうが。

 どれだけスタミナに優れていようが。


 身体を迸る雷は、思考と身体の操作能力を容易く奪う。


 定まらぬ思考の隙間。

 竜の眼は確かに捉えた。


 吹けば折れるような細枝のような剣が、時の流れが歪んだかのように。


 ゆっくり、ゆっくりと、己に迫るその光景を。



 ✕✕✕



 真っ二つになったダンジョンの中。

 剣士は竜を解体する。


 断面から鱗と皮を剥ぎ、血を落とした肉の塊に〝焼き槍〟を突き刺す。


 こんがり焼き上がった頃、〝醤油刺し〟を一刺し。


 それから肉塊を口へ運べば、なんという野性味あふれる芳醇な味わい。


「悪くない」


 剣士は独りごちる。

 〝鉄板〟は鉄くずと化した。

 〝羽のレイピア〟は高すぎる自らの威力に自壊した。

 〝雷鳴剣〟は竜と一緒にレイピアに斬られた。


 雑魚の幼竜ならば鉄板一枚でどうとでもなったが、少しでも腕の立つ竜とやればこれである。


 いくらニビイロドラゴンが上位の竜でその素材も高価だとは言え、こうも魔導具を消耗させられてはさほど収益はプラスにならない。


 それでも剣士は笑う。

 だってこんなにも美味い肉に出会えたから。


 武器はまた調達すればいい。

 それより今は目の前の肉だ。

 どうせこんなには持ち帰れない。

 腐らせるより胃に収めたほうがこの肉も喜ぶというもの。


 どれ、もう一口――!






_____


☆あとがき☆


 主旨どっかいった。

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