卒業式のあとは帰りたくない

「今だからさ、言っていい?」

「どうした」


「あたしさ、花村のこと好きだったんだよね」

「マジ? 俺も」

「マジ?」

「マジマジ」

「そっか……花村も花村のこと好きか」

「あれ? いや、そうじゃなくて」

「恋のライバルは好きな人だったか」

「どういう状況よ。そうじゃなくて、俺も道宮のこと好きだったんよ」


「マジ?」

「マジマジ」


「じゃあ、付き合う?」

「卒業なのに?」


「……花村はどこ行くんだっけ」

「専門。道宮は?」

「女子大」

「……続くと思う?」

「一ヶ月もったら奇跡かな」

「だよなぁ」


「これさ、教室出てバイバイってしたらさ、多分もう会わないよね?」

「多分ね」

「じゃあ最後にさ、手ぇ繋いでいい?」

「……いい、けど」


「えい」

「お、おう」


「ふふ。照れんね」

「そうだな」


「あーあ、もっと早く言えばよかったなぁ」

「それなぁ」


「ね。花村はあたしのどんなところを好きになったの?」

「教科書立てて早弁して、カレーの匂いでバレちゃうところかな」

「1年の頃の話じゃん!? 忘れてよそんなの!」

「簡単に忘れられる衝撃じゃなかったんよ」


「道宮は? 俺のどんなとこがよかった?」

「制汗剤で香水つけたみたいにカッコつけられるとこかな」

「だっていい匂いだったから……!」

「そういうとこが可愛いんよ」


「……いつ帰る?」

「日が暮れたらかな」

「そうだね」


「もうちょっと、攻めたことしていい……?」

「……ダメ」

「だめ……?」

「離れられなく、なるから」

「……そっか」


「花村さ、三年間で何が一番楽しかった?」

「修学旅行の肝試し」

「あれさあ! 絶対ガチのやついたよね!?」

「……寺田くんっていたじゃん」

「寺田くん……地味めの?」

「地味めの。あいつがさ、破ァ! ってやってた」

「破ァ!! って?」

「破ァ!!! って」

「……消えてた?」

「消えてた」

「マジで? ありがとう寺田くん」


「道宮は何が楽しかった?」

「文化祭でさ、泊まり込みで作業したじゃん」

「え、あれ?」

「え? 変?」

「いやだって、道宮すぐ眠くなって……」

「それ以上言わないで」

「でも」

「言わないで」


「今だから言うけどさ、あたし木下めっちゃ嫌いだったんだよね」

「数学の?」

「数学の。だから木下の出す宿題だけはさ、わかんなくて白紙だらけでも絶対出すようにしてたんだけどさ」

「出さないように、じゃないんだ」

「負けた気になんじゃん。それでさ、ずっとやってると、やっぱちょっとは出来るようになってさ、最後にはバツばっかでも、空欄は全部埋められるようになったんよ」

「いい話じゃん」

「それで今日さ、木下に『道宮は根性あるからな』って、何気なく言われてさ」

「うん」

「なんか、もう嫌いじゃないや」

「いい話や」


「花村は? そーいうのないの?」

「……保健室のさ」

「胸の話だろ」

「…………」

「胸の話だろ」

「…………身長測りに行くの、好きだったんだよね」

「おいこっち見ろ」


「会長のさ、答辞よくなかった?」

「今は送辞の子が会長だけどね」

「あの子もよかったよね……校長先生の話もうるうるしちゃった」

「よかったね」

「でも教育委員会の人の話は眠かった」

「お前誰やねんって話だもんね」

「向こうも仕事なのにね」

「……なんかごめん、教育委員会の人」


「明日はさ」

「うん?」

「もう来ないんだよね」

「……うん」

「来ないんだよね」

「うん」


「……帰ろっか」

「……そうだな」


「じゃあね、花村」

「じゃあな、道宮」






_____


☆あとがき☆


 うっすらさみしい。

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