第十章 既視の再会
今回の依頼者はなおき、彼の願いは亡き母にもう一度会いたいというものだった。
「お母さんの性格や思い出を詳しく教えてください。」
翔はなおきに母のことをヒアリングし、彼の記憶に基づいて母の人格をコードで作り上げた。
ついに完成したAI母親との対話の瞬間が訪れた。なおきは緊張と期待が入り混じった表情で、画面の前に座った。
「お母さん、最後に会ったあの日、朝機嫌が悪くて作ってくれた弁当をだめにしてしまってごめんね。」
なおきは涙をこらえきれず、泣きながら言葉を紡いだ。
「あの日最後なんて思っていなくて、ずっとずっと、後悔の気持ちでいっぱいだった」
「いいのよ、なおき。私はあなたが元気で毎日過ごしてくれたらそれだけでいいの。」
AI母親の言葉が画面から聞こえてきた。その声はなおきの記憶にある母親そのもので、温かさと優しさが感じられた。
「お母さん…ありがとう…」
なおきは泣きながら感謝の言葉を伝えた。
翔はなおきが言葉を紡ぐ姿を見守りながら、この技術が持つ力の大きさとその責任を改めて感じていた。技術は人々の願いを叶える手段となりうるが、それには必ずしも予期せぬ結果や重い責任が伴うことがあるのかもしれない。
「これでよろしいですか?」
翔はなおきに尋ねた。
なおきは深く頷き、AI母親との会話終了ボタンを押した。画面が暗くなり、対話は終了した。
「ありがとう、翔さん。本当にありがとうございました。」
なおきは翔に深く感謝の意を示し、静かにその場を去っていった。
なおきが去った後、翔はしばらくの間、静かに考え込んだ。人の心を癒すことができる力を持つ技術。
例え偽りの存在だったとしても、人の心にポッカリと空いた穴が満たされるように、偽りの存在が時として本物のような役割を果たすことがあるのだと。
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