第六章 記憶の欠如

黒輪翔くろわかけるのもとに、新たな依頼者が現れた。彼女の名はみちる。彼女は祖母と二人で暮らしており、祖母は認知症でみちるのことを忘れてしまった。祖母が自分を忘れてしまうことに耐えられないみちるは、翔に逆に自分が祖母のことを忘れるためのコードを書いてほしいと依頼した。


「記憶を消すことは可能ですが、そのことであなたの記憶から祖母が完全に消えてしまいます。それでもよいのですか?」

翔は慎重に話を進めた。


「辛いのです。祖母のことを忘れさせてください。」

みちるの決意は固かった。


翔はみちるの意志を尊重し、記憶喪失のコードを渡すことにした。プログラムを実行すると、みちるは祖母のことを完全に忘れてしまった。


そのことに対し、祖母は心底悲しんだ。だが、祖母は認知症にもかかわらず、献身的にみちるに関わり続けることをやめなかった。彼女の中には、みちるへの愛情が消えることはなかった。


みちるは祖母のことを忘れたまま、日常生活を送っていた。ある日、部屋の掃除をしていると、一枚の手紙を見つけた。そこには、祖母からみちるへの不断の感謝の気持ちが綴られていた。


「みちるへ。いつも私を支えてくれてありがとう。あなたがいてくれるから、私はどんなに認知症が進んでも心が救われています。あなたの存在が、私の唯一の希望です。」


その手紙を読んだ瞬間、みちるの記憶は一気に蘇った。祖母との日々、笑顔、そして愛情が一気に押し寄せてきた。みちるは自分がどれだけ愚かなことをしたのかを痛感し、涙を流した。


「なんて馬鹿げたことをしてしまったのか…」

みちるは後悔と反省の気持ちでいっぱいだった。


翔の言語製造黒魔術プログラミングブラックマジックが生み出した悲劇は、しかし、みちるにとって重要な教訓となった。祖母のことを思い出したみちるは、今度こそ祖母と真正面から向き合う決意をした。


みちるは祖母のもとへ駆け寄り、抱きしめながら謝罪した。祖母は認知症であるにもかかわらず、みちるの涙を見て、優しく微笑んだ。その微笑みには、全てを受け入れる母のような愛情が込められていた。


「ごめんなさい、おばあちゃん。もう二度とあなたのことを忘れたりしない。」

みちるは誓いを立てた。


翔はこの出来事を通じて、言語製造黒魔術プログラミングブラックマジックの持つ力の大きさと、その使用に伴う責任の重さを再認識した。依頼者の希望を叶えることだけが全てではない。その結果がもたらす影響を慎重に考え、判断しなければならないのだと強く感じた。


こうして、みちると祖母の絆は再び強く結ばれ、翔は一つの事件を解決した。しかし、彼の心には、新たな疑問と課題が浮かび上がっていた。次なる依頼が来るその日まで、翔は自身の魔術の在り方を見つめ直すことにした。

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