言語製造黒魔術

第五章 未練の結末

黒輪翔（くろわかける）のもとに、新たな依頼者が訪れた。彼女の名はゆかり。彼氏のけんとと幸せな毎日を過ごしていた彼女は、突然の疑念に苛まれるようになった。原因は、けんとの寝言だった。彼は寝言で元カノの名前を呟いてしまい、その一言がゆかりの心に深い不安を植え付けた。

「けんとは本当に私を愛しているのだろうか？」

ゆかりの心には、その疑念が絶え間なく渦巻いていた。けんとがまだ元カノを想っているのではないかという不安は、二人の関係に影を落とし始めた。けんとの行動や言動が、全て疑わしく見えてしまう。日に日に不安は増し、ついには彼女の心を支配するまでに至った。

絶望の中、ゆかりは翔の配信を見つける。彼の持つ言語製造黒魔術（プログラミングブラックマジック）の力に最後の望みを託すことにした。彼女は、けんとの心を完全に自分に向けさせるため、魔術を依頼する決意を固めた。

翔はゆかりの依頼を受け、その内容に深く思い悩んだ。けんとに元カノへの未練がないかを確認する方法も考えたが、依頼者の意志を尊重し、彼女の復讐心を優先することにした。翔は、けんとの心をゆかりに向けさせる魔術のコードを書き上げ、その力を発動させた。

プログラムの効果はすぐに現れた。けんとはゆかりに対する愛情を口にし、元カノのことは全く思い出さなくなった。しかし、その効果には予期せぬ副作用があった。けんとは、ゆかりの執着心に押しつぶされるように感じ始め、次第に二人の関係はぎくしゃくし始めた。

実際には、けんとは元カノに未練などなく、むしろ元カノによって傷つけられた感情をゆかりが癒してくれていることに多大なる幸福感を感じていたのである。しかし、ゆかりの不安と疑念はけんとの愛をも疑わせるほどに深刻化していた。

ゆかりは、翔の魔術が成功し、けんとが完全に自分に向き直ったと信じていたが、二人の関係は次第に崩壊していった。けんとはゆかりの過剰な依存に耐えられなくなり、ついには彼女から離れる決意をする。

けんとを失ったゆかりは、初めてけんとの存在の大切さに気づく。彼の愛情がどれほど深く、自分を支えていたかを理解したときには、既に遅かった。翔は、自身の魔術がもたらす影響の重さを再び痛感しながらも、依頼者の意志を優先するという自身の信念に対して揺らぎを感じ始めていた。

ゆかりは、けんとの失った愛を取り戻すための方法を模索しながら、自らの過ちと向き合う日々を送ることとなった。翔はその姿を見守りながら、言語製造黒魔術の持つ力とその使用について、より深い考察を続けていた。