第41話 愛羅の告白
「また、こうして一緒の時間を過ごせて嬉しい」
「まあ、なんだ
「いいよ、逆に迷惑じゃないかなって?思ったりするし、今が楽しくてワガママな自分がでちゃって、それでも付き合ってくれて…本当にありがとう」
「感謝されるほどのことじゃないよ。どうしたんだよ、しんみりとした話して」
夕暮れ時だからか、より寂しさを感じる。
「俺だって助けてもらってばかり、毎日感謝だよ」
「……」
彼女の顔からは、何か言葉を探してるように見える。
「やっぱり、悠斗にこの気持ちはちゃんと伝えたかったんだよね」
彼女の目には涙が浮かんでいたが、笑顔を作ろうと頑張っているのが分かった。
「最近考えるんだよね。あの時、勇気を出して悠斗と一緒に歩めてたらなって。中学の時のあたしってホントばかだよね」
「何言ってんだよ」
俺は口ではそう言ったが、愛羅が何を言いたいのか少しずつだか察してきている。
「悠斗が誰かのものになるって分かりきってるからさ……ごめんね。長ったらしくて、本題に入るね」
そう言うと緊張した面持ちになり、少し咳払いしてから口を開いた。
「悠斗のことが好き。付き合ってください」
柄になく丁寧言葉遣いだが、そんなものは全く気にならなかった。
それほど真剣なんだと伝わってくる。
「急だよね。答えずらくてごめんね」
愛羅は軽く笑って見せる。
「まあ、結果は知ってるんだけどね。でもその答えは悠斗の言葉で直接聞きたい」
愛羅の告白が耳に入った瞬間、心臓が一瞬止まったような気がした。
こんなに真剣に想いを伝えてくれる愛羅を、俺はどうしても裏切らなきゃいけないんだと思うと、胸が痛んだ。
『悠斗のことが好き。付き合ってください』
その言葉が脳内で何度も反響する。
俺はどうしていいかわからず、しばらく沈黙してしまった。
答えは知っていると言っていたが彼女の唇は震えていた。
平然を装っているが緊張と不安が伝わってくる。
言葉が喉に詰まる。申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになり、心の中で何度も謝っていた。
「ごめん、愛羅……俺、好きな人がいるんだ」
そう告げた瞬間、愛羅の顔が一瞬凍りついたように見えた。
けれど、すぐにその表情を和らげ、無理に笑顔を作ろうとした。
「そっか、知ってたよ。うん、わかってた。わたしが悠斗の気持ちをわかってないわけないもんね」
彼女の言葉は強がりにしか聞こえない。
俺はすぐに謝りたくなって、思わず口を開いた。
「本当にごめん、愛羅。傷つけたくなかった。また、傷つけてしまった」
その瞬間、愛羅は俺の肩を軽く叩いた。
その力は思ったよりも優しくて、何故か余計に心が痛んだ。
「なんで謝るのよ?振られるのは当然っていうか、わかってたし。わたしが勝手に、もしかしたらを想像してただけだもん」
そう言って愛羅は苦笑いを浮かべたが、その笑顔が心に刺さる。
「いつも隣にいたのがわたしだったからさ。付き合うならわたしかなって、勝手に思っちゃってた。でも、やっぱり違ったんだね」
その言葉に、俺は胸が締め付けられる思いだった。
愛羅は本当に、ずっと俺のことを見ていてくれたのに、俺はそのことに気づけずにいた。
「愛羅……本当に、ごめ、」
また謝りそうになる俺を、愛羅は軽く制止するように首を振った。
「いいの、いいの。もう終わった話だからさ。でもさ、悠斗も後悔しないように、ちゃんと自分の気持ちに正直にならなきゃダメだよ?すぐに行動しなきゃ、間に合わなくなるよ」
自分の想いを断ち切ってまで、俺にそんなことを言ってくれるなんて、愛羅は本当に強いな。
「それに何その顔!今から一緒の車に乗って帰るんだから、そんな顔してたら雰囲気悪くなるでしょ。笑って!!」
そう言って、俺の頬を無理やり引っ張り笑顔を作る。
「わたしの頬も引っ張って!!泣きそうだから早く!!」
「こ、こうか?」
俺たちは頬を引っ張り合い、無理やり作った笑顔が自然な笑顔へと変わる。
笑い声が夕暮れの空気に響き、いつの間にか心のモヤモヤは消えていた。
「ふふ、あんたの顔、すごくまぬけだよ」
「お前だってブサイクな顔になってるぞ
この軽い掛け合いが、いつもの俺たちの空気を取り戻してくれる。
愛羅と一緒にいる時間は、いつもこうだ。楽しいし、心地いい。
「はー、スッキリした」
愛羅は大きく息を吐いて、一歩前へと歩き出す。
「ほんと、なんであんたのこと好きになったんだろう。過去に戻れたら、もっといい男いるよって教えてあげたいよ」
俺はその言葉に思わず苦笑いになる。
「なかなか手厳しいな」
「じゃあ、悠斗は過去に戻ったら、自分に何て言うの?」
その質問に、俺は少し考え込んだ。
「なんだろうな?」
すぐには答えが出てこない。やっぱり、まだ俺は未熟なんだな。
大事な選択をする勇気も、後悔しない行動も、まだまだなんだ。
そんなことを考えながら、お土産屋に戻ると、心配そうな顔をしていた字見さんが目に入る。
どうやら急にいなくなった俺たちのことを心配してくれていたらしい。
「2人ともどこ行ってたの?」字見さんが眉をひそめて聞いてくる。
「ちょっと話してただけ」
愛羅は俺の方をちらりと見てから、軽く笑って応じた。
その笑顔が、まだほんの少しだけ切なく見えたけれど、彼女は気丈に振る舞っている。
「もう思い残すことない? ないなら、帰ろうか」
愛羅はまるで締めくくるように、明るい口調で言った。
愛羅のその一言で、旅が終わりを迎えたような気がした。
帰りの車内は、意外と重い空気になることはなかった。むしろ、みんなで旅の思い出を笑いながら話していた。愛羅もいつものように明るく振る舞っているし、俺も自然に笑っていたけど…どこか心の片隅で、彼女のあの言葉が引っかかっていた。
『悠斗も、後悔しないように、自分の気持ちに正直にならなきゃダメだよ?すぐに行動しなきゃ、間に合わなくなるよ』
窓の外をぼんやりと眺めながら、自分が今、誰に対して本当の気持ちを持っているのか、そしてどう行動すべきなのか、考え続けていた。
愛羅は自分の想いを断ち切ってまで、俺に前を向くよう促してくれた。そんな彼女の強さに、俺も答えられるようにしなきゃいけない。
次は、俺が勇気を出す番なんだ。
車内の笑い声に混じりながら、俺は心の中でそう決意した。
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