第38話

「さて、今度はどこに行こうかな」


 愛羅みたいに食べ歩きもでもしようかな?

 観光通りは美味しそうなものが揃っていてここにいたらお金がすぐに無くなりそうだな。


「愛羅のやつ使いこまないといいけど」


 そういえば奢ったこと口封じするべきだったな。

 あいつのことだし「悠斗に奢ってもらって助かったわ!!」とか普通に言いそうで怖いんだよな。


 あぁ、絶対に海里さんに怒られるフラグ立ってるわ、これ。


 海里さんのに叱られちゃうな。

 なんて考えながらぼんやり歩いていると、ふと橋の上で景色を眺めている人が目に入った。


 綺麗な人だなあと見惚れていると、思わず足がとまってしまった。

 だけど、どこかで見たような服装だな?あれ?これって字見さんと同じ服じゃないか?


 近づいていみると、相手がこっちに気づき俺のほうに体を向ける。


「あれ、悠斗くんこんなところで何をしてるの?」


 見惚れていた相手は字見さんだった。

 朝と違うところと言えば、久しぶりにメガネをかけていたぐらい。


「うーん特に目的もなくぶらついてる」


「そうなんだ。歩いてるだけでも景色がいいと楽しいよね」


「そうだな。ところで字見さんは何してるの?」


「なんとなくボーっとしてた。川の流れ見てるとなんだか落ち着かない?頭の中がすっきりっていうか、ただ何もしないで流れに任せる感じが好きなのよね」


「それ分かるわ。たまに焚火やただ海を眺めるだけの動画たりするし」


 なんとなくだけど、字見さんって俺と思考が似ているのでは?

 こうやって同じものを感じられるのは、なんだか安心するな。


「そういえば、久しぶりにメガネかけてるの見たかも」


「こっちだとより景色が広がって見える気がして」


 なんだか詩的な感じがするな。やっぱ似てないかも。


「なんだか街並みとの雰囲気があってて、文学少女みたいに見えるな」


「そう?今のわたし賢こそうに見えるかな?」


 むふっと自信ありげにメガネを軽く上げる。

 自分で言うとそれはそれで、また印象が変わる


「なんか急にポンコツキャラに見えてきた」


「あ、あれ?」


 俺がツッコミを入れると、思ってた反応と違ったのか字見さんはちょっと照れたように笑った。

 いやまて、ポンコツ文学少女って新しいジャンルもありなのでは?でも字見さん勉強できるほうだった。


 ふと時計を見てみるとまだ時間に余裕がある。


「時間まだあるしちょっと歩かない?」


「いいよ」


 お互い特にこれといった目的もないから、ただ目に入ったものに反応しては軽く触れてみるという感じで進んでいく。

 無計画な観光もこういう気楽さがいいのかもしれない。


「わあ、美味しそうなものいっぱいだね」


 通りを歩きながら、字見さんは目を輝かせながら飲食店や、お土産屋さんを見つめている。

 やっぱり、こういうところに来ると自然にテンションが上がるんだな。俺も、ついついその雰囲気につられて笑みがこぼれる。


「愛羅みたいにすぐにお金がすっからかんになるぞ」


 と冗談交じりで言うと、字見さんがぴくっと肩を揺らした。


「え、あれ?どうしたの?」


 俺が聞くと、字見さんはちょっと驚いたように「な、なんでもないよ」と慌てて答えた。

 もしかして、既に散財してしまったとか?


 まあ、それを追及するのも野暮だし、何か事情があるんだろう。俺は深く突っ込まずにした。


 しばらく歩くと、観光地にしては珍しい動物カフェが目に入った。大きな看板に、可愛らしい動物たちの写真が並んでいる。

 なんかウサギとかハリネズミとか…思ったより多種多様だな。


「猫…いるかな」


 字見さんも気づいたのか、写真を見ながらぼそっと呟いた。

 ふむ。どうやら字見さん、猫好きらしい。


「好きなのか?」


「うん、とても好き」


「端のほうに猫の写真あるぞ」


 そう言うとパッと指先のほうを見る。


「じゃあ、行ってみるか」


 俺が提案すると、字見さんは一瞬驚いた顔をした後、嬉しそうに目を輝かせた。


「いいの?行きたいけど、せっかくだし他にも見るところが…」


 一応遠慮している様子だけど、正直、彼女の猫愛が顔に出すぎてる。


「別に時間はあるし、せっかくだから癒されようか」


 軽く促すと、字見さんは「…ありがとう」と笑顔を浮かべた。

 ネコ×字見さん…うん、間違いなくいい絵面だな。

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