第25話
「それではケガや事故にあわないように気を付け、楽しい夏休みを過ごしてください」
校長先生がそう告げると終業式が終わり、夏休みが始まった。
待ちに待った夏休みだ。教室に戻り、帰りの準備をしていると、隣の席の字見さんがニコニコと嬉しそうにしているのが目に入る。
「悠斗くんは3人での約束のほかに、何か予定あるの?」
「うーん、特に大きな予定はないかな。ゲームしたり、家でゴロゴロしてるくらいかも。字見さんはどうなの?」
彼女は少し考えるようにしてから、控えめに笑って答えた。
「聞いといてわたしも、予定なんてないんだよね。でも、せっかくだから何か一緒にできたらいいなって思って…」
それって2人きり?それともいつものメンバーでの話なのか分からないが、どのみち楽しそうだな。
「それ、いいな。夏休み一緒に楽しもうな」
俺は少し照れながらそう言い、彼女も笑顔で頷いた。
その笑顔が何だか心地よくて、これからの夏休みがもっと楽しみになってきた。
準備を終えて教室を後にし、俺は家に向かって歩き始めた。
今日は特に何も予定がないし、まっすぐ帰ってこれからの過ごし方について考えながらのんびりしよう。
そう思いながら、自宅へと向かう道を歩く。
家に到着すると、玄関のドアを開け、靴を脱ぎ階段を上がる。
すぐに自分の部屋へ向かい、ベッドに飛び込むようにして横になった。体が沈み込む感覚が心地よい。
「最近、ゲーム以外にも楽しいこと増えてきたな…」
そう思いながら、目を閉じた。字見さんと一緒に過ごす時間が増えてきたし、彼女と話すことが自然と楽しみになっている。
そんなことを考えているうちに、眠気が襲ってきた。
しかし、その瞬間、ピンポーンとインターホンが鳴った。目を開け、頭を起こす。
「こんな時間に誰だろう?珍しく訪問者かな…」
半ば無意識に玄関へ向かう。ドアを開けると、そこには字見さんがいた。
彼女は息を切らし、肩で呼吸をしている。まるで何か急いでここまで来たような姿だ。
「や、やっほー悠斗くん」
「ど、どうして字見さんがここに?俺の家、知ってたっけ?」
驚きを隠せないまま、俺は思わず問いかける。
どうして彼女がここにいるのか理解が追いつかない。
「あとをつけてきたから分かったの…」
「え、なんでそんなストーカーみたいなことをしてるの?」
彼女は少し申し訳なさそうにしながらも、息が荒いまま何かを言おうとしている。
しかし、その姿は明らかに疲労困憊で、呼吸も乱れている。とりあえず、理由は後回しにして彼女を中に入れることにした。
「理由はあとで聞くから、とりあえず家に上がって。そんな状態じゃ話もできないだろ?」
「ごめんね…ありがとう」
彼女を部屋に招き入れ、タオルを渡し、キンキンに冷えた飲み物を手渡した。
彼女はそれを受け取り、一気に飲み干した。ゴキュゴキュという音が静かな部屋に響く。
彼女が飲み終わると、タオルで顔や首回りの汗を拭き始めた。
その仕草がなんだか色っぽく見えてしまい、俺は少しドキッとした。
「その様子だとなにか大事なことでもあるみたいだけど…?」
「実はね…」
字見さんはポケットからスマホを取り出し、俺の前に差し出した。
「悠斗くん、教室にスマホ置きっぱなしだったから…」
慌てて自分のポッケを触るが、あるはずのないスマホがない。
「え…?あ、本当だ…ありがとう」
「追いかけて渡そうとしたんだけど、全然追いつけなくて…わたし、体力ないから」
彼女は申し訳なさそうにそう言った。
俺のために、わざわざ追いかけてきてくれたなんて…。その気持ちが嬉しかった。
「そうだったのか…本当にありがとう。でも、わざわざこんなところまで来てくれて悪かったな…」
「ううん、スマホも届けたし長居してもあれだから、そろそろ戻るね。あと…飲み物、ありがとね」
字見さんは帰ろうとしたが、俺は思わず引き止めてしまった。
「ちょ、ちょっと待って」
「どうしたの、悠斗くん?」
「どうせなら、少しだけゆっくりしていかない?まだ疲れてるだろうし…」
彼女が即答で「いいの?じゃあお言葉に甘えようかな」と答えたのが、少し意外だった。
「ねえ、普段どんな部屋でゲームしてるか気になるから、見てもいい?」
急にそんなことを言われ、少し戸惑った。俺の部屋は特に片付いているわけでもないし、普通の男子の部屋だ。
それを見せるのは少し恥ずかしい気もするが…。
「まあ、そんなに特別な部屋じゃないけど…いいよ。見てみる?」
彼女は少し興奮した様子で「ありがとう」と言い、俺の部屋へと足を踏み入れた。彼女の視線が部屋中をぐるりと見渡す。
ゲームのコントローラーやパソコン、漫画やフィギュアが置かれた棚など、彼女の目に映っているのは俺の日常そのものだ。
「思ってたよりも、すごく居心地よさそうな部屋だね」
特に変わったものもないけど、彼女が満足してくれるならそれでいい。
たぶん、俺と同じオタクっぽいところあるし抵抗感がないんだろうな。
「じゃあ、もう少し休んでいって。疲れが取れるまで、ここでゆっくりしてもらっていいから」
「ありがとうね」
彼女はそう言って、ベッドの端に腰を下ろした。
そして、俺はおもてなし用のお菓子と飲み物を取りに台所に向かう。
「字見さんってどういうお菓子が好きなのかな?」
とりあえずバリエーション豊富な詰め合わせのを持っていく。
部屋に戻り扉を開けると、とんでもない光景が広がっていた。
「あ、あの字見さん何してるの?」
字見さんは俺のベットの下を見る様に体を入れ、お尻だけが突き出されていた。
お尻の主張が強いが、とりあえず何をしているのかがきになる。
「え、えと、これはね、あ、痛!」
慌てて戻ろうとして頭を強打する。
「いてて、あ、あのこれには深いわけがあって」
「どんな理由があって、ベットの下に上半身を突っ込むことがあるんだ?」
「えーとね、それはね。え、えっちな本とか隠してのかなあ、と思って」
誤魔化すかのように「えへへ」と見繕った笑顔をみせる。
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