第19話

 俺は完全に字見さんにやられた。見事に騙されて、勝手に盛り上がっていた自分が恥ずかしい。


「そ、そんなにニヤニヤしなくてもいいだろ…」


 俺は少しふてくされた声を出した。予想以上に字見さんが楽しんでいる様子が、逆に悔しい。


「だって、悠斗くん、すっごく真剣な顔してたから…可愛いなって思っちゃって」


「え…可愛い?」


「悠斗くんにもゲーム以外で夢中になれるモノがあるんだなあ、と思って」


 字見さんは、いたずらっぽい表情で笑う。

 パンツに夢中って不名誉すぎない?変な噂広まったりしないよな?


「ちゃんと男の子で安心した」


「安心って…どういうこと?」


「だって、悠斗くん、普段はゲームばっかりで、あんまり女の子に興味なさそうだし…」


 俺っとそんなふうに思われてたのか。

 たしかにあまり恋バナとかしないし。


「そんなことないよ」


「ほんとに?じゃあ、例えばどんな女の子がタイプなの?」


 そう来たか…


「そ、そりゃあ…えっと…」


 いや、待てよ。ここで言ってしまったら、字見さんから愛羅さんに伝わり、そこから拡声器のように愛羅さんから広まる可能性がある。

 絶対に愛羅さんにいじられる……


 口から出そうになった言葉を飲み込みながら、俺は頭をフル回転させる。

 空っぽの状態の脳みそかき分け、必死に最適な言葉を探す。

 ああ、どうしよう…。


「悠斗くんがどんな女の子が好きか、すっごく興味あるなあ」


 字見さんの期待に満ちた目が俺に向けられる。

 どうしよう、もうここは正直に答えるしかないのか…?


「う、うん、そうだな…」


 咄嗟にゲームが頭に浮かぶ。そうだ、これだ!!


「ファンタジアオンラインって知ってるか?」


「うん、もちろん知ってるよ」


「それに出てくる、ルルハってキャラクターが好きかな」


 俺は咄嗟にファンタジアオンラインのヒロインの一人である、ルルハの名前を口にした。

 彼女はゲームの中ではあまり目立たないが、一部の層からは熱烈に人気のあるキャラクターである。


 ぱっと見普通で控えめな外見。服装はおしゃれではないが、どこか愛らしさがある。

 なんていうか、ザ・定番のキャラって感じだ。


 でも、こういうキャラが派手な服を着たり、お色気シーンだったり意外性を見ると、好きになるんだよなあ。


「どうかな?」


「うーん…」


 思っていた答えと違ったのか、字見さんの表情はイマイチだった。


「悠斗くんらしいね」


 引きつった笑顔を見せる。目はあまり笑っていなかった。

 字見さんは、好きの優先度が自分よりゲームのキャラに負けていたことにショックを受けていた。


 もしかして俺、キモがられてる?

 俺はどうすればよかったのか…


「アニメやゲームの好きな人の特徴って、現実に当てはめたりするよな」


 俺は、どうにか軌道修正をしようとする。


「うん、それはわかるよ。自分の理想がゲームキャラに影響されるのは、結構あるよね」


「そうそう!!俺も同じで、三次元でも結構おとなしめの性格の人がタイプだったりする」


「そうなんだ!他には」


 急に字見さんは興味津々になる。

 流れはどうにか戻せたから、あとはこのまま話を続ければ大丈夫なはず。


「例えば、普段はちょっと控えめで、でも時々意外な一面を見せてくれるような人が好きだな。そういうギャップがあって、内面は明るい性格だったりそういう部分に惹かれる」


「なるほど…」


 字見さんが頷きながら聞いている。どうやら、少しずつ話が弾んでいる感じがする。


「それと、共通な趣味があると嬉しいかな。一緒にいて楽しそうだし」


「確かにそれは重要だね」


「そういう意味では、字見さんと一緒にゲームできて楽しかな」


「あ、ありがとう。わたしも楽しいよ」


 今の俺はもしかしたら、ギャルゲーの主人公張りに会話上手いかも?と謎の自信が沸いてくる。


「あと、胸の大きい子が好きかな」


 前言撤回、どうやら俺の口は正直者らしい。

 会話の流れの勢いで、つい口走ってしまった。


「え、えーっと、男の子はみんな、好きだよね……胸がデカい人」


「今のはつい口走ってしまっただけで、別に胸の大きさで好きの優劣は決まらないから」


「だ、大丈夫だよ。男の子がそういうの気にするってし、知ってたから」


 そう言って、字見さんは自分の胸を気にしながら、プシューと音を鳴らしながら赤面していた。


「そろそろ、昼休み終わるから教室戻るね。遅れないように気をつけてね」


「そ、そうだな。俺もすぐ戻る」


 字見さんは一足早く教室に戻った。


「うーん完全にやらかしたな。絶対に変態の烙印を押されたな」


「それにしても、字見さんのパンツ、もう一回見たかったなあ……」


 いや、見せてくれようとした気持ちとそこ至るまでの経緯が重要だ。

 そこにこそ価値があるんだ!!と思ことで気持ちを落ち着かせた。


 ―――


 一方字見さんは…


「学校では隠してるけど、ブラを緩めたらわたしだって大きいよね?」


 屋上に繋がる階段で、ボソッと呟く。

 自分の胸をムニっと揉んで大きさを確かめていた。


 ―――


 最後までお読みいただきありがとうございます!最新話から出来る作品の★評価、感想などをいただけますと、モチベが上がるのでよろしくお願いします!

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