第17話

「うん、これで準備万端」


 わたしは鏡の前に立ち、スカートの長さを調整をする。

 このくらい攻めなきゃダメだって神凪さんも言ってたし、信じてやってみるしかない。


 最後の仕上げに髪を整え、玄関に向かう。

 今のわたしはきっと可愛いと、言い聞かせ扉に手をかける。


「いってきます!!」


 学校に向かう道を歩くたびに、スカートが揺れ、そのたびに少しドキドキする。

 普段なら意識しないようなことも、今はすべてが気になってしまう。


「これで本当に大丈夫なのかな…」


 そう自問自答しながらも、わたしは足を止めずに歩き続ける。学校に近づくたびに、不安と期待が膨らんでいく。

 悠斗くんは、今日のわたしに気づいてくれるだろうか。少しでも違う反応をしてくれたら、それだけで嬉しいけど…


 そんなことを考えていると、あっという間に学校に着いた。

 どうしよう、ここまできでまだ心の準備ができてない。


 いつもの流れで靴を脱ぎ、上履きを準備し外履きを下駄箱に入れようとする。

 そこで違和感に気づく。これしゃがんだ時、後ろの人に見られない?


 慌ててスカート裾を押さえ、なんとか無事に靴をしまう。

 チラリズムの限界と、変態にならない境目を攻めるの難しくない?


 早速挫折しそうになるけど、覚悟を決めてきたので諦めるわけにはいけない。


 教室の扉の前に立ち深呼吸をする。

 扉を開けると、真っ先に視界に悠斗くんが映る。


 作戦は、まずはいつも通りに挨拶してから席に着く。

 そして、あえて椅子をいつより引いた位置にし、スカートが机で隠れないようにする。

 そこで、いつものように会話をしてそのタイミングで足を組んでみて、視線をスカートに移す。


 うん、完璧になはず!!


「悠斗くんおはよう」


「字見さんおはよう」


「今日はいつもより暑いよね」


「そうだな。学校に向かうまで暑くて溶けるかと思った」


 カバンから授業に必要なモノを取り出し、カバンをかけ椅子に座る。


「教室にもエアコンとかあればいいのにね」


 作戦通りに椅子を引いて、全体が映るように座ることに成功する。

 あとはさり気な見せるための仕草をするだけ。


 試しに足を組んでみると、悠斗は喋りながらさり気なく組まれた足に視線を向ける。

 いま一瞬わたしの足を見たよね?しかし、すぐに視線を足から別の場所に移す。


 たまたまだったのかな?組み直して、反応を確認しないと。


 もう一度足を組み直して、悠斗くんの反応を探るため、さりげなく視線を彼に向けた。

 今度はどうだろう?彼の目が、ほんの一瞬だけどスカートに留まったのが見えた。


「…えっと、そうだな、エアコンがあればいいのに」


 動揺しているのか、一瞬言葉に詰まっていた。

 今度は絶対に見た気がする!!でも確信を持てない。


「こうも暑いと蒸れて、大変だねー」


 そう言って今度は、スカートの裾をパタパタと揺らす。

 動いているものがあると、自然と目で追いたくなるはず。


 さっきより、露骨に瞬きが増えている気がする。

 さすがに本人を前にして、ガッツリ見る訳にもいかないので、悠斗は瞬きの瞬間にチラッと見る作戦を取っていた。


 反応が怪しから、見ているとは思うけど…

 こうなったら最終手段にでるしかない。


「ねえ、悠斗くん、見て見て暑いからスカート短くしてみたんだ」


 そう!最終手段とは直接スカートについて言及すること。

 直接言ってしまえば見るしかない。


「う、うん、そうだな。最近は本当に暑い日が続いてるからな」


「どう、似合ってる?」


 悠斗くんの声には、少し動揺が混じっているように感じた。

 それを聞いた瞬間、わたしの胸の中で期待が膨らんでいく。


 確実に意識している。作戦は成功している。


「似合ってるよ。あと、その…」


 意識しているのか、悠斗くんは顔を赤くさせていた。

 やっぱり、悠斗くんも男の子だから気になるんだね。


「あまり、スカートをあおがないほうがいいと思うよ」


「え?何かついてる?」


「いや、違くて、その言いずらいんだけど、見えてる」


 その言葉を聞いた瞬間、顔が一気に熱くなった。

 何が見えているのか、すぐに理解できた。


「えっ、見えてる!?」


 そう言うと、悠斗くんは小さく頷いた。


 失敗したー!!ギリギリを狙うつもりが見えていたとか、恥ずかしすぎるよ。

 心臓がバクバクして、今すぐにでもその場から逃げ出したい気分だった。


 恥ずかしさでスカートを押さえていると、ボソッとなにか聞こえた。


「字見さん…黒のパンツ履いてた…」


「◎△$♪×¥●&%#?!」


 混乱して声にならない声が漏れ出る。

 ただ見られるだけではなく、色まで知られてしまった。


 その瞬間、心臓がさらに早く鼓動を打つのを感じた。

 どうしよう、悠斗くんに黒のパンツを見られたなんて、恥ずかしさのあまり目を合わせることさえできない。


「ご、ごめん!見るつもりじゃなかったんだ、本当に!」


 悠斗くんが慌てて言い訳をするのが聞こえるけど、頭の中は真っ白に。

 恥ずかしくてどうすればいいか分からなくて、とっさに立ち上がる。


「悠斗くんのえっち!!」


 飛び出すように教室を飛び出した。


 そしてトイレに駆け込む。急いでスカートをいつもの長さに戻して、何度も深呼吸をする。

 わたしが自然を装って、ギリギリのラインを見せようとしたのが悪いのに、えっちと言ってしまった。


 あとで謝らないと…心の中で、ちょっとだけガッカリしている自分がいた。

 もっとさりげなく彼の気を引きたかったのに、結局はこうして指摘される形になってしまった。


 でも、それでも悠斗くんがわたしの変化に気づいてくれたことは、少し嬉しかった。


 ―――


 教室の様子


「字見さん…どえろすぎるでしょ」


 とんでもないものを目にして、記憶の中からパンツが消えずに残る。


 すると、周りの男子たちが急に接近してくる。


「おい!悠斗!!なんで見えてるって言うんだよ!!」


「言わなければ、俺らもパンツ見ることが出来たのに」


「お前だけずるいぞ!!」


 自分だけ見たあげく、指摘してしまい男子の夢を奪ってしまい、反感をかってしまう。


「パンツ見たんだろ、どうだった?」


「色ぐらいは分かったんだろ!!」


「それだけは言えない…」


 字見さんのために口を固く閉ざし、罵声を浴びながら、字見さんのパンツを守った。


 ―――


 最後までお読みいただきありがとうございます!最新話から出来る作品の★評価、感想などをいただけますと、モチベが上がるのでよろしくお願いします!

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