第15話 字見視点
授業が終わり、教室内が徐々にざわめき始める。
黒板を消しながら、先生が不意に告げた。
「明日、席替えをするからな」
えっ!?明日、席替え!?
その言葉が耳に入った瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
悠斗くんと、席が離れてしまうかもしれない…。
不安が一気に押し寄せて、心がざわつく。
隣に座っている悠斗くんに目をやると、彼は何も気にしていない様子でノートを片付けている。
なんでそんなに落ち着いていられるの?わたしはもう、頭の中がジェットコースター状態なんですけど!?
悠斗くんが隣じゃなくなるなんて、寂しいよ…。
どうしてもこの気持ちを押さえ込むことができず、つい口にしてしまった。
「隣じゃなくなるね…」
悠斗くんは一瞬こちらを見て、すぐにさらっと答えた。
「まあ、そうだな。でも、席替えするだけだし、そんなに心配することないんじゃない?」
わたしにとっては、これ世界の終わりレベルの大問題なんですけど!?
席が離れちゃったら、今みたいに悠斗くんと話せなくなるかもしれないのに…!
わたしの脳内はすでに「悠斗くんと離れたら…話せなくなる…悠斗くんが他の子と仲良くなる…そして、わたしは一人ぼっち…」と、負の妄想が無限ループし始めている。
「でも…悠斗くんが隣じゃないと寂しいよ…」
地の底まで落ち込む声を出してしまった。
悠斗くんは驚いたように目を大きく開いて、少し戸惑った様子で笑った。
「そんなにショック受ける!?ただ席が離れるだけで、転校するわけじゃないんだし」
悠斗くん、わかってないよ…。授業の前にちょっとした雑談ができるのが、どれだけ楽しいことか…。
悠斗くんが他の誰かと仲良くなって、わたしが疎遠になっちゃったら、どうしよう…。
頭の中で不安がぐるぐると大きくなって、胸の奥がぎゅっと締め付けられる感じがした。
「お願い!席が離れても、ゲームだけは絶対にログインしてね!」
わたしはもう、感情が溢れてしまい、勢いでお願いしてしまった。
悠斗くんは、驚きつつも苦笑いしながら、優しく言った。
「よっぽどのことがない限り、ログインしないなんてことはないよ」
それって、信じていいんだよね?
「約束して!わたし、悠斗くんがいないと…寂しいんだもん!」
もう、必死すぎて恥ずかしい。でも、これは命懸けのお願いなんだ。
「わかったわかった、ログインするって。そこは安心してくれていいよ」
「本当に?」
「うん、そこだけは信用して」
「よかった~」
本当によかった…。少しだけ、心が軽くなった気がした。
―――
次の朝、いつもより早く目が覚めた。今日は席替えの日だ。
昨日からずっとこのことばかり考えていて、どうしても頭から離れない…。
今日はなんだか、占いに頼りたくなってしまう。
普段は占いなんて信じないけど、今日は特別な気がする。
こんな日は、普段頼らない占いにでも頼りたくなってしまう。
まずはスマホで有名な占いアプリを開いて、誕生日を入力…。
「今日の運勢は…最下位!?」
嘘でしょ!?どうしてこんな日に限って…。
しかも、ラッキーアイテムは「黄色のシュシュ」だって!?
シュシュ!?わたし髪、切っちゃったばかりでシュシュなんて付けられないんですけど!?
次に別の占いを試してみた。結果は…。
「今日は人間関係でトラブルの予感。特に親しい人との距離に気をつけて」
これ、まさに今のわたしの状況じゃん!
もう、どれもこれもダメだ。不安がどんどん大きくなっていく。
最後にテレビの星座占いを見ると――
「おとめ座は最下位!!」
もちろん、わたしはおとめ座。
もう、どうして!?
どれを見ても今日の運勢は最下位ばかりで、正直なところもう完全に諦めモード。
でも、なんとか自分に言い聞かせて、学校に向かう。
大丈夫、席替えなんてただの運だし、気にしすぎても仕方ない…。
でも、その言葉も自分を慰めるだけで、心の中の不安は少しも解消されないままだった。
とぼとぼとした足取りで学校へ向かい、全身から力が抜けた状態で教室に入る。
「字見さんおはよ…ってどうしたのその格好?」
「これ?ただのラッキーアイテム」
「随分気合入ってるね」
「無いよりましだって思って、一応準備してきたの」
そしてクラス全員が集まり、いよいよ席替えが始まる。
先生がくじ引きの方法を説明した後、紙に番号が書かれたくじをみんなで引くことに。
ああ、いよいよ…どうしよう
次々と生徒たちがくじを引いていく中で、ついに悠斗くんがくじを手に取り、それを持って席に戻る。
悠斗くん、どこに座るんだろう
「さて、俺の席はどこかな。最前列だけは嫌だな」
悠斗くんが少し呟いたのを聞いて、わたしは慌てて声をかけた。
「ま、待って!わたしの分まで待ってほしい」
「2人で見たほうが緊張も2倍でいいかもな」
「ゲームみたいに楽しまないでよ」
どうか、また隣の席になりますように…神様、お願い!
心の中で「神様、仏様、どうかまた隣の席にしてください」と強く願いながら席を離れ、箱に入ったくじを引く。
今日の運勢が悪かった分、神様に頼ればどうにかなるって信じたかった。
そして、くじを持って席に戻る。
「じゃあ、せーので見よ」
「俺も準備できたよ」
さあ、いよいよ!どうか、どうか!!
そして目が合い、それが合図かのように声が揃う。
「「せーの!」」
わたしたちは同時にくじを開いたが、わたしは緊張のあまり、なかなか目を開けられなかった。
「さあ、どうかな?」
悠斗くんの声が聞こえ、わたしはそっと薄目を開けて、手にしたくじの番号を確認する。
「わたし、24番だよ」
「俺は25番だな。て、ことはまた隣同士だな」
その瞬間、わたしの中で一気にハッピースイッチがONになった。
「やったー!!また隣同士!」
思わず声が出てしまうほど安心する。
隣同士に戻れたことが、こんなにも嬉しいなんて思っていなかった。
「またお隣同士、よろしくな」
悠斗くんがそう言いながら、軽く笑いかける。
「うん!よろしくね」
今日の運勢が最下位でも、わたしにとっては最高の結果になった。
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