第12話

 次の日、俺は健司から「放課後、一緒に帰ることに成功したぜ!」と得意げな報告を受けた。


「字見さん、最初は人見知りだったけど、俺がたくさん話してリードしたんだぜ!オレって、やっぱりすごくない?」


 健司はまるで自分が恋愛マスターか何かであるかのように、胸を張って自慢していた。


 健司の性格を考えると、彼がリードして会話を進めたというのは想像に難くない。

 果たして字見さんにとってそれが良い方向に向かっているのか、疑問が残る。


「それで、どんな会話をしたんだ?」


 俺は健司に詳細を聞くことにした。


「最初はさ、普段何してるの?とか、趣味は?って感じで軽く話しかけてみたんだよ。そしたらさ、やっぱり人見知りだからなのか、あんまり会話が弾まなくて」


「で、そっからどうなったんだ?」


「でも、『友達がいないなら、俺がなってやるよ』って言ったら、少しは打ち解けたみたいだった」


 健司らしいが、「友達がいないなら俺がなってやるよ!」という、一見優しいが押し付けがましい言葉は悪手だろと思う。


 こういうのは、小学生どうしのストレートな感情だから成立するのであって、心が成熟している相手には傷をつけてしまう可能性がある。


 健司の話を聞きながら、俺は少しばかり不安を感じ始めた。


「俺がゲームの話を振ったら、字見ちゃんがな突然早口でゲームのことを語り出したんだ!いやー、オレも悠斗から情報もらってるとはいえ、あの勢いにはついていけなかったよ!」


「そりゃ、字見さんの好きなことだもんな」


「でさ、ついていけなくなったから、冗談で『字見って、好きなことになると早口になるんだな!』って言ったら、字見ちゃんが急にハッとして、顔が真っ赤になって、うつむいちゃったんだよ!その顔がまた、可愛いのなんのって!」


 健司は完全に舞い上がっているが、俺は心の中で思わず「お前、それはデリカシーなさすぎだろ…」とツッコミを入れた。



 健司はニヤニヤしながら話を続けた。どうやら彼なりに字見さんとの距離を縮めたつもりらしい。


「でもなぁ、そろそろ少し慎重になったほうがいいんじゃないか?」


「何言ってんだよ、悠斗!俺はもう、告白も視野に入れてるんだぜ!」


「は?告白?お前、まだ早すぎるんじゃないか?」


「大丈夫だって!字見さん、俺と結構仲良くなれたっぽいし、今がチャンスだろ!」


 健司は自信満々に言い切った。俺はそれでも、何かが引っかかっていた。健司のデリカシーのなさが、字見さんにどう影響を与えているのかが気になって仕方なかった。


「まあ、ありがとうな、悠斗。お前のおかげでここまで来れたよ!」


 健司は満足そうな顔でそう言うと、教室を飛び出していった。

 その背中を見送る俺は、どうにも胸の中のモヤモヤが晴れないままだった。


 そしてあっという間に放課後がやってきた。

 帰宅の準備をしていると、字見さんが何やら困った様子でため息をついているのに気づいた。


「どうした?」


 俺が声をかけると、字見さんは一瞬だけ俺の顔を見たが、すぐに目をそらし、はぐらかそうとする。


「い、いや、なんでもないよ」


 その態度がますます怪しい。俺はすぐさま思い当たる節があった。

 健司のやつ、また何かやらかしたんじゃないか?


「これは困った…」そう思った俺は、即座に可愛い同盟の頼れるメンバー、愛羅さんを召喚することにした。


 スマホを取り出し、「可愛い同盟」のグループに救援を求める。


『愛羅さん、ちょっと手伝ってほしいんだけど…』


 俺がそう書き込むやいなや、愛羅さんは教室に風のように駆けつけた。


「どしたん?字見ちゃん、話聞くよ」


 陽キャ特有のそのテンポの速さに、字見さんは少しだけ驚いた様子だったが、同性である愛羅さんの存在に安心したのか、やっと口を開いた。


「放課後に話したいことがあるから、体育館裏に来てほしいって…言われたの」


 字見さんがそう打ち明けると、愛羅さんはパンっと手を叩いて叫んだ。


「絶対それ、告白じゃん!」


「わー恥ずかしいから大きな声で言うのやめて!!」


 周りの目を気にしながら、愛羅さんの声をかき消そうとした。


 俺は思わず「やっぱりか…」と頭を抱えた。健司、早すぎるだろ!もっと段階を踏めよ!


「それで、相手は誰なんだ?」


 俺は分かりきった答えをあえて尋ねてみた。


「健司くん…だよ」


「げっ、あいつかよ」


「なんかあったのか?」


 愛羅さんは顔をしかめた。


「いやさ、あいつさ、あたしの胸や太ももばっか見てて、正直、気持ち悪いんだよね…」


 愛羅さんの愚痴を聞いて、俺は「そりゃあ嫌われるわな」と納得した。

 たしかに愛羅さんのグラマラスな体型はつい見たくなくなるけど、みんな自重してるんだぞ。


 健司のデリカシーのなさが、こういうところで裏目に出ているのかもしれない。


「悠斗くんはどう思う?」


 字見さんが不安げに俺に尋ねてきた。


「俺は告白とか、そういう経験はないから分からないけど、正直な気持ちを伝えればいいんじゃないか?」


 俺の言葉に、字見さんは「そうだね」と小さく頷いたが、まだ浮かない表情をしていた。

 それを見た愛羅さんは心配そうに彼女を見つめた。


「大丈夫?わたしも一緒についていこうか?」


 愛羅さんがそう提案すると、字見さんは慌てて首を振った。


「大丈夫だよ。そろそろ時間だし、行くね」


 そう言って、字見さんは駆け足で教室を飛び出していった。

 その後ろ姿を見送りながら、俺は心配がつのるばかりだった。


「愛羅さん…」


 俺が声をかけると、目が合う。、彼女も同じ気持ちであることが伝わってきた。

 俺たちは言葉を交わさずとも、何をすべきか理解し合い、お互いに頷き合った。


「行くよ悠斗」


「もちろん!同行します」


 俺たちは字見さんを尾行し、様子を見守ることに。


 ―――


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