第11話
次の日、俺は昨日の字見さんとの会話を健司に伝えることにした。
「健司、朗報だぞ。字見さん、好きな人まだいないってよ」
そう告げると、健司の顔がパッと明るくなり、勢いよく拳を突き上げた。
「マジかよ!好きな人がいないなら、俺にもチャンスあるじゃん!」
彼はその場で飛び跳ねんばかりの勢いだった。
健司のテンションの上がり具合はすごい。まるで一攫千金を手にしたかのような喜びようだ。
「ただ、気になる人がいるみたいだけどな」
俺は少しだけ慎重に釘を刺す。
しかし、健司はそれを聞いても、特に気にする様子もなく、相変わらずのハイテンションだった。
「いいんだよ!それなら、まずは仲良くなるところから始めればいいんだから。それに、まだ本気で好きってわけじゃないんだろ?」
「まぁ、そうなるのかな。でも、急ぎすぎるなよ」
「わかってるって!まずはゆっくり仲良くなるところから」
健司は自信満々に言い切ったが、俺は少しだけ心配だった。
健司の性格を考えると、何か行き過ぎた行動を取りかねない気がしてならない。
「なあ、ゲームについて教えてくれよ」
「なんだ、健司もとうとうゲームに興味を持ったか?」
「いや、俺がゲームやりこんでも字見ちゃんには追いつけないだろうから、知識だけでも知っておこうと思ってさ」
「それでアピールしようってわけか」
「そういうこと!その知識があれば、ゲーム好きのフリくらいはできるだろ?」
健司の言うことも一理あるが、実際にゲームをしていないと、あとあと会話が苦しくなるんじゃないかと俺は疑問に思った。
「でもそれなら、話が合わなくなったらどうするんだよ?」
「そのときはそのときだ!まずは近づくことが大事なんだよ!」
健司の勢いに押されて、俺も「まぁ、そうかもな」と曖昧に同意するしかなかった。
その後、健司は
「そうだ、明日の体育の授業のペア決め、協力してくれない?」
と言い出した。
「協力?どういう意味だ?」
「お前が字見さんと組まないようにしてくれれば、俺が組めるだろ?」
―――
そして次の日、体育の授業
先生が「ペアを作るように」と指示を出した瞬間、周りの人たちが一気にざわめき始めた。
字見さんは、不安そうな表情で誰かを探すように辺りをキョロキョロと見渡す。そこで俺と目があう。
すると、近づきながらパーッと顔に笑顔が浮かび上がる。
「あの、悠斗くん、わたしまだペア決まってなくて、よかったら組まない?」
「ごめん、先約があって」
「そうなんだ。それならしかたないね…」
健司との約束で、字見さんとは組むことが出来ない。
字見さんはショボーンとした表情になり肩を落とす。
その時、狙ったかのようなタイミングで健司が近づいてきた。
「もしかして字見ちゃん、まだペア決まってないの?」
「うん、まだなんだよね…」
字見さんは気まずそうに答えた。
「えー、嘘!?こんな可愛い子を1人にするなんて、ありえないって」
健司の大げさな言葉に、字見さんは乾いた笑い声を漏らした。
「そんなことねーって。どうせなら俺が組んでやってもいいぞ」
健司は軽い調子で提案した。
字見さんは周りを見渡すが、ほとんどの生徒がすでにペアを組んでいた。
「そ、それじゃあよろしくね」
字見さんは健司とペアになることに。
俺は2人の様子を遠巻きに見ていた。健司と字見さんが一緒に準備体操をする姿を見ながら、字見さんがあまり楽しそうにしていないことに気づいた。
健司は楽しそうに話しかけていたが、字見さんはどこか落ち着かない様子で、時折俺の方をチラチラと見ているように気がした。
「どうしたんだろう…」俺はその違和感を拭いきれないまま、授業が進んでいった。
体育の授業が終わると、健司が嬉しそうに俺に近づく。
「悠斗、ありがとうな!おかげで結構距離が縮まった気がするぜ!」
健司は満足そうな顔で言った。俺も「よかったな」と軽く返事をしたが、心のどこかで何かが引っかかっていた。
―――
放課後
「字見さん、今日も一緒にゲームする?」
俺はいつものように彼女に声をかけた。
しかし、字見さんはバツが悪そうな表情になる。
「ごめんね、悠斗くん。ちょっと用事があって」
「そっか」
もしかして、健司のやつ放課後デートにでも誘ったのか?
久しぶりの字見さんがいない日になりそうだな。
少しだけ寂しさというか嫉妬というか、もやっとした気持ちになる。
その日はあまりゲームをする気分にはなれず、ぼんやりと時間を過ごすことにした。
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