第7話

 放課後、授業が終わり、クラスメートたちはそれぞれ部活に向かったり、友達と帰る約束をしたりして、教室から去っていく。

 俺は特に予定があるわけでもなく、机に突っ伏しながらぼんやりと、窓から外の景色を見ていた。そんな時、字見さんが静かに近づいてきた。


「悠斗くん、ちょっと相談があるんだけど…」


「うわっ!ビックリした!!」


 字見さんは、そっと俺の耳元でささやくように話しかけたきた。

 ぼーっとしていたのもあり、思わず驚いてしまった。


「ご、ごめん。驚かせるつもりはなかったの…」


「大丈だよ。それよりどうした?何か困ったことでもあった?」


「ううん、困ったことっていうか…可愛くなるためについて、ちょっと相談したいことがあって」


「こないだ約束したもんな、次のレベルアップのために何をするか、一緒に考えようか」


「うん、ありがとう」


 俺たちは向かい合って、2人で頭をひねりながら話し合いを始めた。しかし、すぐに壁にぶち当たることになる。

 お互いにおしゃれに詳しいわけでもなく、何をどうすればいいのか具体的なアイデアが出てこないのだ。


「うーん、やっぱり素人には難しいな。俺たちだけじゃ限界があるかも…」


「そうだね、何か新しいことを試したいけど、どうすればいいのか全然分からない」


 俺たちはしばらくの間、悩んでいたが、ふと、俺はある人物のことを思い出した。

 彼女なら、こういう場面で的確なアドバイスをくれるかもしれない。


「そうだ、ちょっと待って。いい人がいるかも」


「え?」


 俺はそのまま字見さんを連れて隣のクラスへと向かった。


愛羅あいらさんいる?」


 目的の人物、神凪愛羅かんなぎあいらさんはいつも通り、机に腰掛けで友達と話していた。愛羅さんは、高身長のモデル体型で金髪セミロングの毛先を巻いている。

 見た目通りのギャルである。派手な外見とは裏腹に、とても気さくで誰にでも優しい人である。


「ん?悠斗じゃん。どしたの?」


「あってほしい人がいるんだけど」


「こ、こんにちは」


 少しだけ怯えながら、背後からひょこっと顔を出す。


「え?彼女できた報告?おめでたじゃん。めっちゃかわいいじゃん、羨ましいわ」


「そうじゃなくて、この人は字見さん。実は相談があって」


「えぇ?字見ちゃん!?ずいぶん垢ぬけたね!どうしたの、急に?」


「実は……」


 愛羅さんは驚いたように目を丸くしたが、俺はすぐに事情を説明した。

 すると彼女はニヤリと笑い、興味津々といった様子で頷いた。


「なるほど、そういうことね。字見ちゃんが変わりたいって思ったんだ。うん、面白そうじゃん。手伝ってあげるよ!」


 愛羅さんはそう言って、いろんな角度から字見さんをじっくりと見つめた。


「神凪さん、顔が近いよ…」


 まじまじと顔を見つめられ、字見さんは少し恥ずかしそうに下を向いた。


「愛羅さん、協力してくれてありがとう」


「いいって、こういうの好きだからさ。さて、まずは…」


 愛羅さんは少し考え込んだ込む。


「十分可愛いけど、でも、まだだめだね。確かに変わったかもしれないけど、これはまだ原石の角を削ったにすぎないの。次のステップは、輝かせることよ」


「輝かせる…どうすれば?」


 字見さんが興味津々といった表情で聞く。


「うーん…まずは思い切って髪を切ってみるのはどう?それだけでも印象がだいぶ変わるよ」


「髪を…切る?」


 字見さんは少し不安そうに髪を触った。


「そう、髪型ってすごく大事なのよ。例えば、ショートにすると明るいイメージになるし、ロングにすれば清楚な感じが出る。でも、ただ切るだけじゃなくて、顔の形や雰囲気に合ったスタイルを選ばないとね」


「うん…でも、どんな髪型が似合うのか、全然わからないよ…」


 字見さんが困ったように言うと、愛羅さんはスマホを取り出して、ヘアーカタログを検索し始めた。


「じゃあ、3人で一緒に似合う髪型を探してみようか。これなら字見ちゃんも安心でしょ?」


「うん、ありがとう」


 こうして俺たちは三人でヘアーカタログを見ながら、字見さんに似合うスタイルを探し始めた。

 愛羅さんの的確なアドバイスや、字見さんの反応を見ながら、徐々に候補が絞られていく。


「これ気になるかも」


「どれどれ」


「あたしにも見せて」


 俺と愛羅さんが覗きこもうとする。


「悠斗くんは…まだダメ」


「え?俺だけダメ」


「悠斗くんはあとでの…お楽しみ」


「じゃあうちらで見ようか」


「どうだと思う?」


「いいんじゃない、今の字見ちゃん似合うと思うよ」


「ありがとう」


 字見さんの表情が少し明るくなり、次第に自信が芽生えていくのが見て取れた。


「その調子!やっぱり、自分が楽しんで変わろうって思うのが一番大事だからね」


 愛羅さんは笑顔で励まし、続けて言った。


「じゃあ、これで決まりかな?週末に美容院に行くこと。もちろん、あたしも付き添うから安心して!」


「うん…ありがとう、神凪さん」


 字見さんは感謝の言葉を口にしながら、ホッとした表情を見せた。


「いいってば、友達だからね。それに…」


「友達?」


「こんなに話したらもう、うちら友達みたいなもんでしょ」


 愛羅さんはニヤリと笑いながら、俺たちを見渡した。


「それに、今日からわたしたちは『可愛い同盟』を結成するのよ!これからも一緒に頑張ろうね!」


「え?可愛い同盟?」


 俺は驚いた表情を見せた。

 逆に愛羅さんは目を輝かせていた。


「うん、可愛い同盟!これから3人とも、もっともっと可愛くなろうって約束ね」


「なんでそれに俺も加わってんだよ。俺が可愛くなる必要ないだろ」


 愛羅さんは一層笑顔になり、字見さんもその提案に嬉しそうに頷いた。


「うん!可愛い同盟、よろしくお願いします!」


「よし、それじゃあまずは、週末に向けて準備を整えないと」


 愛羅さんが気合を入れて言うと、字見さんも少しずつ自信を持ち始め、前向きな気持ちが伝わってきた。


「これから一緒に楽しく頑張っていこうね!」


 愛羅さんの明るい声に、教室の空気が和やかに包まれて。

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