第5話
次の日、俺は少し早めに学校に着いた。
字見さん変化がどんな反応を引き起こすのか、興味津々だったからだ。
教室に入ると、まだ数人しか到着していなかった。
いつもの光景だが、今日は少し違う。字見さんが来るまでの時間が、いつになく長く感じる。
「おはよう、悠斗」
振り向くと、寝ぼけた顔をした健司がヨタヨタと俺に近づいてきた。
あまりにもだらしない姿に、いつもの朝の光景に少し安心する。
「おはよう、健司。相変わらずのまぬけ顔だな」
「うっさい、朝からそんなにツッコミ入れんなよ。昨日は徹夜だったんだよ」
「いや、むしろここまで酷いとダメ出しのしがいがあるってもんだ」
健司は俺の言葉に軽くため息をつき、だらしなく伸びをした。
いつも通りの健司とのやり取りに、俺も少し気持ちが落ち着いたが、今日の本命はこれからだ。
「それにしても、いつもより来るの早くね?」
「まあな、ちょっとした楽しみがあるからな」
「なんだよ、それ。教えろよ」
健司がしつこく食い下がるが、俺はにやりと笑ってはぐらかす。
正直、字見さんの変化を彼がどう受け取るのかが楽しみだった。
少しの間、くだらない話で時間を潰すと、教室のドアが開き、誰かが入ってきた。
いつもと少し違う雰囲気が漂っていた。何かが違う。いや、誰かが違う。
みんなが一斉にそちらを見ると、そこには――字見さんが立っていた。
いつもはメガネと前髪に隠れていた顔全体が、はっきりと見える様になっていた。
そして、俺が来ていることに気がつくと、優しい表情の笑顔を見せた。
「お、おはようございます…」
彼女が少し恥ずかしそうに挨拶すると、教室内は一瞬静まり返った。
「おい、悠斗!あの子めっちゃ可愛くね!?お前のこと見てたけど、なんか知ってるのか?」
健司は、字見さんと気がつかず釘付けになって見ていた。
字見さんは恥ずかしくて、周りからの視線で落ち着かず、速足で自分の席に座った。
「お、おはよう、悠斗くん!」
「おはよう字見さん。似合ってるよ」
「う、うんありがとう…でも、まだちょっと慣れないけど…」
「え!?もしかし地味子??」
健司パニックなりながら、目をぱちくりとさせていた。
「お、おい、悠斗…」
隣の席に座っていた健司が俺の腕を引っ張った。
いつもは適当なことばかり言っているが、今日は少し真面目な表情をしている。
「おい、悠斗…あれ、地味子だよな?」
「そうだよ、あれが字見さんだ」
「なんか、今日やたらと…可愛くね?」
健司の言葉に俺は心の中で「よし、来た!」とガッツポーズを決めた。これこそ、俺が期待していた反応だ。
「気づいたか?これが字見さんの本当の姿だ」
「本当の姿って、お前は何を知ってたんだよ?」
健司が驚いた表情で俺を見つめるが、俺は微笑んで肩にポンと手を置く。
「まあ、彼女の魅力は隠れた宝石みたいなもんだ。ちょっとした磨き方で、これだけ光り輝くってことだよ」
その時、教室の他の連中もざわざわと話し始めた。
「地味子、今日なんか違うよな?」
「いや、普通に可愛いだろ…」
「地味子が…地味じゃない?」
ぽつぽつとそんな声が聞こえてきて、次第に教室全体が字見さんに注目していることがわかった。
彼女自身も少し戸惑いながら、どうしよう!と言いたげな表情をしていた。
「なあ、悠斗、あれ本当に字見さんだよな?俺、ちょっと夢見てんのか?」
健司が半ば本気で問いかけてきた。その顔には、本当に信じられないという驚きが満ちていた。
「安心しろ、健司。これは現実だ。字見さんは、変わったんだよ」
健司と話していると、普段字見さんと交流がない女子たちが興味津々に机の周りに集まっていた。
「イメチェンしたの?」
「イメチェンというかジョブチェンジ?かな?」
「よく分からないけど、今のほうが絶対いいよ」
「字見ちゃんメガネはどうしたの?」
「コ、コンタクトに変えたんだよ。慣れないけど、新鮮でいいかも」
「色づきやがって、字見、もしかして好きなやつでもできたのか?」
「ち、違うよ!そんなことないから」
女子たちが字見さんを囲みながら、キャーキャーと騒いでいた。
次から次と質問責めされ、あたふたとする。
「反応が怪しいぞ」
「こういうときのきっかけって、だいたい男絡みだよね」
周りの子の勢いに、今にもパンクなりそうになりがら、こちらチラチラと見てきた。
「字見さん、可愛いぞ!!」
送られる視線に返答するかのように、ヤジを飛ばすように声をかけた。
すると、余計にポッと顔がグラデーション状に赤くなっていく。
混乱している、その表情すらもどこか可愛らしい。
「なあ、悠斗」
「なんだよ健司」
「なあ、悠斗…俺、字見さんのこと少し気になるかも」
「そりゃ、良かったな。けど、急いだほうがいいぞ。ライバルが増えるかもしれないからな」
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