第3話

 俺は字見さんの顔をじっくりと見つめ、その可愛さに驚かされた。前髪で隠れていた顔全体が見えたことで、彼女の魅力が一層引き立ち、思わず息を飲む。


「字見さん、ヘアピンとか持ってる?」


「持ってるけど…どうして?」


「いいから」


 少し不安そうな表情を浮かべた字見さんが、テーブルに置いてあったヘアピンを俺に渡してくれた。「ごめん、顔にちょっと触れるけど、我慢して」


 彼女の顔が完全に露わになると、その美しさに改めて感動した。

 大きな瞳、すっと通った鼻筋、そして少し赤らんだ頬…全てが完璧だった。



「これでもっとよく見える。字見さんの顔、すごく可愛いから、隠しておくのはもったいないよ」


 その言葉に、字見さんの顔はさらに赤くなり、彼女は照れ隠しをするように手で顔を覆った。


「え、そ、そんなことないよ…」


「いや、ほんとに字見さん、すごく可愛いよ」


 俺は心からの本音を伝えた。字見さんは恥ずかしそうに下を向いたが、その仕草すらも愛らしく、俺の胸はキュンと鳴った。


「なんか、こんなに褒められると…すごく照れるよぉ…」


「照れてる姿も可愛いよ! 今のほうがいろんな表情が見れて、なんかすごく新鮮だし」


「も、もう!そんなに言わないでよ、恥ずかしいよ!」


 初めて聞く字見さんの少し大きな声に、俺は驚いた。それほど恥ずかしかったのか、彼女はもじもじして落ち着かない様子だった。


「これからも、その可愛い姿を見せてほしいな」


 俺は冗談半分で言ったつもりだったが、字見さんは真剣に受け取ったようで、一瞬驚いたように目を見開き、それから小さくうなずいた。


「わ、わかった…悠斗くんがそう言ってくれるなら、頑張ってみる」


「うん、その意気だ!」


 そう言って、俺は片付けに戻ろうとしたが、字見さんがそっと俺の腕を掴んだ。その触れ方は、まるで壊れ物を扱うように慎重だった。


「もっと可愛くなりたいから…これからも手伝ってほしいの…」


 彼女の声はか細く、少し震えていた。普段控えめな字見さんが、自分からこんなことを言い出すなんて、少し驚きだった。


「えっ、俺が?あまり自信ないけどな…」


「お、男の子の意見も知りたいから…その、男の子からどう見えてるか…」


 字見さんは、顔が今にも破裂しそうなくらい赤くなっていた。

 その一言に、俺の胸がドキッとした。彼女は本気で自分を変えたいと思っているんだと、その思いがひしひしと伝わってきた。


「そうか…それなら、俺で良ければ協力するよ」


 俺は少し照れくさそうに答えた。だけど、字見さんのために何か力になれるのなら、それは悪くないと思った。


「ありがとう、悠斗くん…本当に嬉しい」


 字見さんの笑顔は、まるで緊張の糸がほぐれたように柔らかくなっていた。

 彼女の笑顔を見ていると、もっと自信を持たせてあげたい、もっと可愛くなれるよう手伝いたいという気持ちが湧いてきた。


「字見さんさ、もし本気で可愛くなりたいなら、少し提案してもいい?」


「え?…うん、もちろん」


 彼女は少し不安そうにしながらもうなずき、俺の言葉に耳を傾けた。

 真剣な表情が、俺に対する信頼を表しているようで、なんだか嬉しくなった。


「まずは、メガネをコンタクトに変えてみたらどうかな?今のままでももちろん可愛いけど、顔立ちがはっきり見えると、もっと魅力が引き立つと思うんだ」


「メガネを…外すの?」


 字見さんは戸惑いを隠せない様子だった。彼女にとってメガネは、ある種の安心感を与えてくれるものだったのかもしれない。

 それを取り除くのは勇気がいることだろう。


「うん、でも無理にとは言わないよ。試しに、今ここでメガネを外してみるだけでもいいから、どうかな?」


 俺の提案に、字見さんは少しだけためらいながらも、ゆっくりとメガネに手を伸ばした。

 その動きが、まるで爆発物を解除するかのように慎重で、俺は思わず笑ってしまいそうになる。


「え、えっと…じゃあ、やってみるね…」


 字見さんは、まるで生まれたての小鹿のように震えながら、メガネを外した。

 その瞬間、まるで劇的ビフォーアフターのテーマソングが流れ出すかのように、彼女の顔が一変する。


 いや、正確には変わってないけど


「…どうかな?」


 字見さんは、まだ少し不安そうに頭をかしげて俺を見つめる。


「可愛いよ!めっちゃ可愛い!!なんで俺は今までこの可愛さに気がつかなかったのか」


「じゃ、じゃあコンタクトに変えてみるね」


「そのほうが絶対いいよ!いっそのこと今の姿で明日、学校に行ってみようよ!!」


 ―――

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