第2話

「あれ?ここはどこだ」


 重たいまぶたを開くと、そこには見知らぬ天井が広がっている。俺は混乱しながら辺りを見渡す。

 シンプルで清潔感のある部屋だ。本棚がありそこには、たくさんの小説が整然と並べられている。


「これ、よく字見さんが読んでる小説だ…」


 え、ここどこだ?俺、どこにいるんだ?

 まさか、見知らぬ家のベッドで目を覚ますなんて。なぜこんなことに?頭の中を探ってみる。


「たしか、字見さんとカフェで…それから、なんか顔に強烈な衝撃が…」


 頭を押さえながらぼんやりとした記憶をたどっていると、部屋のドアが静かに開く音がした。

 反射的に振り向くと、そこには字見さんが心配そうな顔で立っていた。


「気がついた?」


「字見さん、ここ…」


「ごめんなさい、まだ混乱してるよね。カフェで気絶しちゃったから、家に連れてきたの」


 え?気絶した俺を家まで運んだって?え、字見さんの家!?でも周りの人たちはそれを見て何を思ったんだろうか…

 いや、そこは深く考えないほうがいいな。とりあえず感謝の気持ちを伝えよう。


「そっか、ありがとう。助かったよ」


「さっきは本当にごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど…」


「大丈だよ、それにしてもなんで俺は気絶したんだ?」


「そ、それは…わたしの、…っぱいが…」


 え、何だって?彼女は顔を赤くして、恥ずかしそうに目をそらしている。最後の部分がうまく聞こえなかった。


「ごめん、最後のほうが聞こえなかった」


「わたしのおっばいが、悠斗くんの顔に直撃したの!!」


 えぇぇぇぇぇ!?俺の頭の中で一気に記憶がよみがえる。

 破裂音とともに、字見さんの…その、おっぱいがムチのようにしなって、俺の顔を直撃したんだっけ。うわ、なんか色々すごいことになってるじゃん…。


 俺は思わず顔が赤くなった。いやいや、冷静になろう。

 字見さんも真っ赤だし、これどう収拾つけるんだよ。うーん、なんとか場を和ませるために言葉を絞り出さないと。


「いやいや、気にしないで。むしろありがとう」


「いや、でも…本当にごめんね」


 彼女は勢いよく頭を下げる。それと連動するように胸が揺れる。え?揺れてない!?

 もしかして、まだブラを付け替えてない?普段は目立たないけど、今はすごい自己主張してるんだけど…。


「本当に大丈夫だから」


 いま俺は、とんでもないものを見ているのかもしれない…


「それにしても、字見さんがこんなに…その、豊かだったなんて気づかなかった」


 ぼそっと呟く。


「そんなこと言わないでよ、恥ずかしいから…」


 字見さんは顔を真っ赤にして、一直線に胸に向く俺の視線を手で遮ろうとする。

 彼女は混乱していたのか、バランスを崩す。本棚にぶつかり、棚の上からいくつかの本がバラバラと落ちてきた。


「あぶない!」


 俺は咄嗟に彼女を支える。うお、柔らかい…いやいや、そういうこと考えるなって、俺!

 でもこれ、普通にまずい状況じゃないか?いや、絶対まずいよな。体が反応しそうで、すごくヤバい。


「あ、ありがとう、悠斗くん」


「いや、俺のせいでもあるから」


 彼女は少し照れた様子で、顔をうつむかせている。

 いや、ほんと可愛いな。いやいや、そういうこと考えるなって、俺!冷静になれ、冷静に。


「字見さん…その、このまま体を密着されると、大変なことになるのでそろそろ離れてもらえますか?」


「ご、ごめんね。またやらかしちゃった」


 おっと、今度は気絶せずに感触を感じ取れた。…ちょっとだけラッキーかもしれないけど、それは言えないな。


「とりあえず、本を片付けますか」


「そ、そうだね」


 床に散らばった本を拾い集める。って、何この本…「ギャルになる方法」字見さんがこれ読むのか?

 他にも「初めてのメイク」とか「可愛くなる方法」とか、なんか色々すごいラインナップだな…。


「あ、それは、見ちゃダメ!!」


 字見さんは焦った様子で、本を俺から奪い取る。


「字見さん、これ…もしかしてギャルになりたいの?」


 俺の問いに、彼女は一瞬固まった後、顔を真っ赤にしてうつむいた。え、やっぱりそうなのか…。


「そ、そんなわけじゃないけど…わたし、ずっと地味でおとなしいから、真逆のギャルみたいに明るくてみんなに好かれる子に憧れてるだけ…」


 恥ずかしさからか、字見さんの声はか細くなり、肩をすくめるようにしていた。


「そっか…そうだったんだ。でも、字見さんはそのままでも十分魅力的だと思うよ」


「そんなことないよ…わたし、ずっと地味で、目立たないし…」


『そんなことない!!この巨乳は需要はありまくりだ!!』なんて言うことはできないし、俺はどう返したらいいのか分からず、ただ彼女を見つめるしかない。


「変だよね、わたしなんかが…」


 彼女が髪をかきあげた瞬間、前髪で隠れていた目元があらわになった。

 え、めっちゃ可愛いじゃん!?何これ!?


「字見さん!今のめっちゃ可愛いよ!!」


「い、いきなりどうしたの!?」


「俺、字見さんの魅力を引き出すことできるかも…」

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