会いに来た
十坂真黑
会いに来た
私の母は霊感があるというのではないけれど、妙に勘が鋭いところがあります。
長いこと会っていなかった知人の顔がふっと頭に浮かんだと思えば、その日の午後にばったりその人と再会、なんてこともよくあったそうです。
これはそんな母から聞いた体験談です。
数年前のこと。
当時、私たち家族は集合住宅に住んでいました。我が家は五人家族なのですが、人数の割に家が狭く、エアコンのある部屋も限られていたため、母は長男と次男と同じ部屋で寝ていました。
畳の上に布団を敷き、昔ながらの雑魚寝スタイルです。
ある晩、いつものように寝ていると、母は生まれて初めての金縛りに遭いました。
経験したことのある人なら分かるかと思いますが、あれほど不気味なひと時もありません。
じっと布団の中で息を殺し、見えない拘束が解けるか、深い眠りにつくのを待つしかない。
金縛りが必ずしも霊現象とは限らないのは承知としても、なんとも嫌な時間です。
こういう時に目を開けると、良くないものが見えるかもしれない。母はぎゅっと瞼に力を籠めます。
いやだなあ。早く終わらないかな。
壁時計の秒針がこちこちと、やけに大げさな音を立てて響きます。
無限にも思えるその恐怖の時間を、母は頭の中でお経を唱えやり過ごしたといいいます。
どれくらい時間が経過したのか。不意に金縛りが解け、身体が自由になった感覚がありました。
あー怖かった! 安堵から隣で寝ているであろう次兄の布団に手を伸ばし、寝ている彼の腕を掴もうとした、その瞬間。
母は「ぎゃっ!」悲鳴を上げそうになったそうです。
なぜなら、掴んだ腕の感触が明らかに次兄のものとは違ったから。
その腕は、まるで病人のように瘦せこけ、骨と皮だけ。華奢な腕の感触は、到底この世のものとは思えなかったといいます。
その後はいつの間にか眠ってしまったようで、気付けば朝になっていたそうです。
それから数日後、母は古い友人が亡くなったことを知りました。
長い闘病生活の結果、死の間際のその友人の身体はがりがりにやせ細っていたといいます。
「もしかしたら、その人が会いに来てくれたのかもね」
会いに来た 十坂真黑 @marakon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます