第5話

「ん?あ、いやいや。そうじゃなくて、さっきからずっと気になってたんだけどさ。その…俺のこと、白川さんって言うのやめない?」


「え?」


どうして?白川さんは白川さんなのに。


「俺たち付き合ってるんだし、泰雅って呼んでほしいなぁ。なんて」


「え。そ、そんな、」


今更名前呼びなんて、小っ恥ずかしくて無理だ。


無理無理。


「じゃあ、せめて泰雅さんで」

「それは…」


そういう問題じゃないんですけど…、

"さん"を付けたところで無理ですよ。


「嫌?あー、やっぱりそうだよね。こんなおじさん名前で呼びたくな「泰雅さん!泰雅さん泰雅さん!』ふふ、ありがとう」


おじさん作戦を使えばなんでも許されると思ってない?


お願い事される時、よくこの作戦使われてる気がするんだけど。


「もうっ。自分の事、おじさんとか言うのやめてください!泰雅さんはおじさんじゃないです!」


顔だって若いし、実際、年齢だって私と四年しか変わらないのに。


「おじさんって言えば同情して、俺の言うこと聞いてくれるかと思って」


「なっ!」


そうかなとは思ったけど、

まさか、分かってしていたなんて。


泰雅さんって意外と計算高い?


「図星だった?」


まさに、図星だったから悔しい。


「…それでも、おじさんおじさん言うのはやめてください、」


悲しくなるから。

いつか、ちゃんとおじさんになる日が来るのに。


「分かった。好きな子が本気で嫌がる事は俺もしなくないからね」


す、好きな子だって...


泰雅さんは、私が照れる言葉をさらっと言ってのける。好きとか可愛いとか…


きっと、泰雅さんは経験豊富な大人だ。


付き合ってるからそりゃ好きでいてもらわないと困るけど、それでも、いざ泰雅さんの口から好きなんて言われたら…


それはそれは嬉しいものだ。

これは何年経っても慣れないだろうな...


「陽菜ちゃんって、ほんとに可愛いね」


「えっ、」

「そんなので照れてたらこの先もたないよ…?」


そう言いながらいたずらっぽく笑った。


泰雅さんのそういう顔も嫌いじゃない。

とか、これが恋は盲目ってやつなのかな。


大人な泰雅さんも好きだし、子供みたいな泰雅さんも好き。


結論どんな泰雅さんも好きなんだよね。


「それってどういう…」


すぐに照れないでとかそういうこと?


「陽菜ちゃんの心の準備ができるまでずっと待つから、心配しないで」


なにを待ってくれるのかは分からないけど、泰雅さんのためにも頑張ろう。


「ありがとうございます。えっと…、頑張ります…?」


「ふはっ、ほんとにもう…」

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