第6話 花子さんは、君を食べたい

(秒針の音)


「ねえ、サボるって言ってたよね、君」



「うん、じゃないよ!」


「ハッ!」



(花子さん慌てて小声になり、)



「つい大きい声出しちゃった」



「知ってるよ、ここ図書室でしょ」



「図書室って、

 こうやって囁き声でしゃべらないといけないんだよ?」



「え? それもまたいい感じ?」



「そうかなぁ」



「内緒話してるみたい?」



(花子さんが席を詰める音。主人公にぴったりとくっつく)



「たしかに、こうやって、

 近づかないといけないね」



「え? サボるの初めてで、どこに行っていいかわからなかった?」




(花子さん声を抑えるように笑う)



「ぷくくく……」


「君って、本当にかわいいね」



「わたしは、君と一緒ならどこでもいいよ」



「だって、君と一緒だと楽しいもん」





「ねえ、君はどんな本を読むの?」



(主人公が椅子から立ち上がる音)



「一緒に? 本を探しに?」



「いくいく!」


「あっ、小声だったね」



(図書室を歩く音)

(主人公が書架から本を取り出したので、)



「妖怪……大図鑑?」



「あはははは」


「あっ、また……」



(花子さん口元に手をやって、)



「シー」



「妖怪大図鑑に、わたし載ってる?」



「えっ? 読んでくれたの?」


「えへへ、うれしいな……って」




(ページをめくる音が止まる)




「なんじゃこりゃあ!!!」




「わたしのイラスト、ひどくない?」


「わたし、こんなに幼女じゃないでしょ!」


「それに顔色悪すぎない?」


「だから、もっとお胸がぽい〜んのお姉様に——」




「あ、ごめん。

 シーだったね」



「実物はちがう?

 へへ、言うようになったじゃないか」



「ありがと」




(書架を歩く音)

(花子さんが中原中也の本を取り出して、)




「見て見て、このタイトル面白い~」




(主人公の耳元で)





「『ホラホラ、これが僕の骨』」





「ぞくっときた?

 幽霊が言うと洒落にならん?」



「あはは」



「他にも君を驚かせちゃうものあるかなぁ」



「うーん」



(歩く音)

(花子さんが本を手に取る)



「ねね、こっち来て」



(花子さんに手招きされて隣に立つ主人公)





「『二人きりで、

 いつまでも

 いつまでも

 話していたい気がします』」





(沈黙)

(ポン、と本を閉じる音)




「あ、あのさ」



「わたし……」



「君のこと……」



(花子さんの喉がゴクリと鳴る)




「『頭から食べてしまいたい』」




(主人公が後退るので、)



「えっ? 

 逃げないで逃げないで」



「なんでぇ?」



(追いかける花子さん、涙声で)



「人間の愛情表現じゃないの? これ?

 本に書いてあること言っただけなのにぃ」



(遠のいて行く主人公の後ろ姿を見ながら、)

(ボン、という音と共に花子さんの変身がとける)



「あ……」



「幽霊の姿に戻っちゃった……」





「好き

 だなんて、

 言えないよ」





※引用図書


中原中也,ロゼッタストーン編集部,2017,『ホラホラ、これが僕の骨』,ロゼッタストーン

別冊宝島編集部,2018,「芥川龍之介からのちの妻、塚本 文へ」,『文豪たちのラブレター』宝島社

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