第5話 花子さん、受肉する

(カツカツと廊下を歩く音)


(教室の扉が開く)



「会いに来ちゃった!」



(ガタガタと机が動く音)



「ふふふ、驚いているね。

 そうであろう、そうであろう」



「驚いただろう! 

 わたしがトイレを離れていることを! 

 そして、君の学校の制服を着ていることに

 さ~ぞ、驚き、嬉し涙を流していることだろう!」

 


(テーン! の効果音)



「大袈裟って? 

 で、でもそのくらいの反応してくれなきゃ……」



(主人公、花子さんを連れて爆速で走る)



「あッ、どこへ連れていくつもり~!?」



(二人の走る足音。息切れしながら、)



「はぁ、はぁ……まっ……うぅ……」


「お、お水ちょうだい」



「ううん、トイレの水道水じゃなくて、ペットボトルのやつ……」



(ゴクゴク、と水を飲む音)



「ぴゃー!!」


「ペットボトルの水って、こんなに美味しいの?」



「幽霊のくせに、疲れているなんておかしい?」



「ほっほー! よーく気がついたね」



「とくと見よ!」



(衣擦れの音と勢いよく立ち上がる音)



「これが、人間の体だッ!」



(テーンの効果音)

(沈黙)



「えっ、ちょっと、もっと驚いてくれないと」



「受肉したのかって? 

 うーん、まあ、半分あってるかな」



「えええ、何その顔。

 ちょっと男子~、変な想像してない?」




「人魚姫って、お話あるでしょ?」



「そうそう。

 人間に恋した人魚姫が、海の魔女と契約して人間の足を手に入れるお話」



「ソレ」


「うん。ソレみたいな感じ」



「え? 雑? 説明が雑?」




「簡易人間っていう薬があってね。

 数時間だけ人間になれるっていう薬なんだ」



「すごーくお高いんだよ。

 あと二粒しかないんだから」




「あはは、やばい薬じゃないよ。

 昨今の幽霊界では、この薬が流行ってるんだ~。

 そうでもしないと、近頃の人間は幽霊の存在を認めないからね」




「まあ、その話は置いておいて……」



「この姿なら、ちゃんと膝枕出来るし、

 君に触れられるね」




「ふふーん。

 膝枕、楽しみにしておいてくれたまえよ」



「顔がにやけてる? わたしの!?」



(花子さん言い訳する)


「そ、そりゃあ、にやけたくもなるでしょう?

 この制服、前々から着てみたかったんだから」 




「早速なんだけれど」


「触ってみても、いいかな?」



「本当に触れるか、確かめるだけなんだからね」



「えっと……

 恥ずかしいから、前髪だけね」



「じっとしいて……」



(コツン、と花子さんが一歩踏み出す音)



「あっ」



「やわらかい」




(チャイムの音)



「わっ!」



「びっくりした」



「うん。く、薬の効き目は、

 ばっちりといったところだね」



「もう授業かぁ」



「サボる? ダメだよ、学生たるもの勉学に——」



(主人公、花子さんを連れて走り出す)



「ちょっとー! どこに行くつもり?」



(二人が走る音)



「あはは」



「気持ちいい~! 風が冷た~い!」



「サボっちゃおー!」

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