第4話 花子さん、突撃おトイレさんをする
「やあ! 少年!」
(主人公、驚いて扉にぶつかる音)
「おっ、いい反応だねぇ。
上出来、上出来」
「なんで、学校の男子トイレから、
君の家のトイレにやって来たかって?」
「よく聞いてくれました!」
(花子さん、流暢に話し始める)
「わたしはね、トイレがあれば移動なんてお茶の子さいさいなのだよ。
全国ツアーもそうやって、
トイレからトイレへと移動してまわったのだよ」
「ふっふーん」
「って、アレ?
なんかドン引きしてない?」
「汚くないよ!
下水を通って……は、ないよ……
うん、たぶん」
「とにかく! わたしはこうやって、
わざわざ、君に会いに来てやったのだよ」
「どうだい? うれしい?」
「えっ、うれしくない?」
「おっ、おかしいなぁ。
トイレに置き忘れてあった本には、こういう展開があったのになぁ」
「何の本かって?」
「俺の幼馴染が俺の部屋に入り浸ってて目のやり場に困ってます、ってやつなんだけど」
「それは、それ?
これは、これ?」
「はぁ……」
「また失敗しちゃったんだね……」
「ごめんね、
君の話を聞こうと思っただけなんだよ」
「じゃあ、
また明日、
学校でね……」
(引き留める主人公)
「驚いただけ? うれしい?」
「本当?
やったぁ!」
「えへへ、
実はわたしも突撃おトイレさんは、ちょっとまずいかなぁって思ってたから、安心したよ」
「家のトイレはびっくりする?
うん、そうだよね。
今回だけにする。約束ね」
(指切りをする二人)
「ところで、なーんか君、疲れてない?」
「疲れてるように見えるよ」
「えっ! わたしのせい!?」
「ごっ、ごごめんなさい」
「なーんだ、冗談か……はぁ」
「文化祭が、もうすぐだから?」
「ふーん、
クラスの文化祭実行委員になっちゃったわけね」
「よしよし。おねいさんの膝に頭をのせたまえ」
(膝をポンポンと叩く音)
「恥ずかしがるでないぞ」
「えっ?
わたしの顔が赤いって?」
「は、恥ずかしいわけじゃないんだから」
「これも、本で勉強したんだからね!」
「って、あっ……
ついネタばらししてしまった」
(花子さん、独り言でモゴモゴと、)
「もぉ……
どうして自然体に出来ないんだろう」
(衣擦れの音。主人公が花子さんの膝に頭をのせようとする)
「ふふ、トイレだから狭いね」
「まあ、膝枕というより、
膝すり抜け枕になっちゃったけどねぇ」
「ドア開けて、君は体だけ外に出そうか」
(立ちあがろうとする主人公を花子さんが制して、距離が近づく)
「わたしがやるね」
(ドアの開く音)
(衣擦れの音)
「じゃあ、目を閉じて」
「そうそう」
「頭をなでてもいいかな?
直接、触れられないけれど……フリだけ」
「ありがと」
(主人公、花子さんに頭をなでられる)
「君は、よくがんばっているね」
「わたし、トイレから出られないから、
君のがんばりを見ることが出来ないけれど」
「君ががんばっているのは、
大丈夫、ちゃんと伝わってくるよ」
「だって、君は幽霊にもやさしいでしょ?
だから、たくさんの人から
頼られているんじゃないかな」
「いつもにこにこしていて、やさしくて……」
「それはとても素敵なことで、
君の魅力でもあるんだけれど」
「疲れちゃうこともあるよね」
「だからね、もし」
「もし、わたしでよかったら。
また、こうやって癒してあげる」
「だめ、かな?」
(主人公がうなずくので、)
「へへ、やっぱり君はやさしいね。
君を癒したいのに、逆にわたしが元気もらっちゃったな」
「はい、今日はここまで」
(衣擦れの音。主人公が起き上がる)
「ど、どうだった?」
「本当? やった!」
「でも、トイレで寝転ぶのはちょっと?」
「うーん、相変わらず贅沢なこと言うなぁ君は」
「じゃあ、トイレに布団をひくのは?」
「それもダメ?」
「全くぅ、生意気だなぁ~」
「そうだ! アレを使おう!」
「なになに? 食いついてきたね?」
「アレが何か、知りたいようだね」
「ふふーん、教えないよー」
「それじゃ、わたしはもう帰るよ」
「ちゃんと歯磨いて、体あっためて寝るんだよ」
「え? お母さんみたい?」
「失礼だなぁ、わたしは独身だぞ!」
「それじゃあ、またね」
(トイレのフタが開く音)
「あっ、ちょっと待って」
「いや、もうすぐ帰るけど」
「その前に……」
「きょっ……今日も、
会えてうれしかった!」
(トイレのフタが閉じる音)
「それだけ!」
(流水音)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます