第2話 花子さんは、二次創作して欲しい

「うっ……ううっ……」



(男子トイレの個室のドアが開く音)



「あっ……」



(主人公がトイレの個室に入る足音)



「ちょっと、ノックぐらいしてよね」



(ギイィと、個室のドアがゆっくり閉まる)

(少しの間)




「泣いてなんか、ないよ!」



「泣いてなんか……ううっ……」




「え? 君が座りなよ。わたしは幽霊で——」



「わたしが、泣いている、から?」



(花子さん鼻をすする音)



「へへ、君は変わってるね」



「なんで泣いてたか、聞いてくれるの?」


「ありがと」


「やっぱり、君はやさしいね」




「実は、わたし」




「不潔便所姫って呼ばれてるのおおぉぉぉ!」




「人間じゃないよぅ。幽霊界のやつらに!」



「不衛生な場所に住んでるってぇぇぇ」



「しかも最近はBL好きって設定まで追加されてるんだよぉ? ひどくない?」



「なんでって? わからない? 

 わたしが最近、男子トイレにいるからだよぉ……ううっ」





「そうだよ! 昔は幽霊界のアイドルだったよ。

 でもさ、最近は他のやつらの方が人気じゃん?」



「二次創作でチヤホヤされやがって!」


「ねぇ~! 

 わたしだって、二次創作で描いて欲しいよぉ。

 チヤホヤされたいよぉ」



「お胸だって、もっと大きくして、

 豊満ボディになるんだもん!」



「……だって、男の子って、

 大きい方が、

 好き……なんでしょ?」



(主人公が吹き出すので)



「もぅ! どうして笑うのー?」



「えっ……今のままでいいって?」


「な、なんで?」


「今のままの方が——」



(花子さん、主人公に吸い寄せられるように近づく)



「教えない? 

 えっ、最後まで言ってよー」



「教えてくれないと……」



(ガチャリ。鍵が閉まる)

(花子さん、主人公に顔を寄せて、)




「ここから出さないよ」



「えへ、だってわたしはトイレの花子さんだよ」


「イジワルくらい、させてよ」




(ドン、と扉を一発叩く音)



「ひゃあッ!」



「こ、これは数年前に流行ったという……

 壁ドンのトイレバージョン!?」



「そ、そそそそんなことしたってぇででですね」


「わっ、わたしは! 

 とととといれのはなこで——」



(三秒の間)



「……えっ?」


「……かわいい? わたしが?」



(ガチャリ。鍵が開く)

(トイレから脱出する、主人公の軽快な足音)




「あっ! 

 こら! ずるいぞ!」



「ちょっと! 

 待ちなさーい!」




(立ち止まり、振り返る主人公)



「あ、あのさ」


「さっきは、話聞いてくれて、

 ありがと」



「ちょっと、楽になった、かも」



「また、トイレしにくる?」



「だって、君とお話しするとなんか、

 楽しいっていうか——」



(花子さんものすごく小さな声で、)


「もう少しだけ、一緒にいたかったな」



「ううん、なんでもない」


「次はおもてなししてあげるね」


「トイレの水道水は嫌?」


「贅沢なこという子だねぇ、君は。

 でも、残念! 

 もっとスペシャルなおもてなしだから。

 楽しみにしててね!」

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