トイレの花子さんの蝶々喃々

あまくに みか

第1話 花子さん、男子トイレにいる

 ※ASMR形式。ひとり語りで展開します。



(水道で手を洗う音)

(主人公の左耳元で、囁き声)



「君、みえてるでしょ」



(キュッと水道の蛇口を閉める音)

(主人公、驚いて振り返る)



「ほら、やっぱり。幽霊がみえる人だ」


「え? ここ、男子トイレ?

 うん、知ってるよ~」



「わたしが誰だか当ててみない?

 聞いたら驚くと思うんだ~」



「……ちびまる子ちゃん?」




「ちがうよ~。ぜんっぜん、ちがうー。

 あっちはおかっぱだけど、

 あたしは黒髪ボブだもん」



「あたしは、花子さん。トイレの花子さんだよ」



「はぁ……。

 これがジェネレーションギャップってやつか」




「男子トイレにいるから、わからなかった、って?」



「あはは! そうだよね!」



「どうして男子トイレにいるか、知りたい?

知りたいよね」



(主人公、圧に負けてうなずく)



「こっち、個室でお話ししよう」



(主人公の連れて行かれる足音)

(男子トイレの個室のドアが閉まる)



「さあ、どうぞ。トイレのフタに座って」



(バタン、とトイレのフタが閉まる音)



「え? わたしが座れって?」



「わたしは大丈夫だよ~。

 幽霊だし、疲れないし。でも——」



(花子さん、主人公に近づいて囁く)



「君って、やさしい人だね」



「えーっと、こういう時は、おもてなしをしなきゃだよね。

 何か飲む? トイレの水道水でよければ……」



「いらない? 

 そう? 遠慮しなくていいのに」



「そうだったね。わたしがなんで男子トイレにいるかって話だったよね」



「ほら、わたしって三階の女子トイレの三番目のトイレにいるっていう設定じゃない?」



「わたしったら、幽霊界のアイドル的存在だったでしょ?」



「知らない? まぁ……平成初期の話だからねぇ」




「全国ソロツアーしたんだよ。

 日本中の小学校の女子トイレをまわってさぁ。

 あの時は楽しかったなぁ」



「でもね……。

 二周したあたりから、飽きてきちゃったんだよね。

 それで中学、高校の女子トイレもまわったの」



「そうこうしているうちに、

 時代は令和になっちゃった。

 少子化……廃校……」



「あっ、ごめん。つい暗い話しちゃって。

 君が聞き上手だからかな、なんてね」



「もう女子トイレは飽きたんだよ~」



「だから、今は男子トイレをまわっているんだよ~」



(チャイムの音)



「おっ、大変! 授業始まっちゃう」



「行っていいの、って?」



「当たり前じゃん! 

 高校生は勉強しないとだよ~」




(男子トイレの扉が開く音)




「聞いてくれてありがとね」



(主人公がトイレから離れる足音)




「あ、あのさ」



「また、明日も来る?」



「えっ? 

 数時間後に、また来る? 

 生理現象だから?」



「あはは。うれしいな」



「君に会えてよかったよ。

 またね」

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