第23話 フェリクス様のとっておきな場所

 サンドイッチの包みを持って、私たちはお屋敷に戻ってきた。

 フェリクス様は、とっておきの場所に連れて行くと言っていたけど。──手を引かれ、広いお屋敷の中庭を抜ける。そうして、やってきたのはダンジョンの管理棟。

 この前は渡り廊下から直接、フェリクス様の執務室へ向かったけど、今日は正面入り口から中へと入った。


 エントランスは賑やかで、多くの人が行き来している。皆、フェリクス様の姿に気付くと挨拶をするけど、街であった人たちみたいに囲むようなことはなかった。


「ここが……とっておきの場所ですか?」

「まさか。それだと俺がよほどの仕事バカのようだろう」


 一瞬、きょとんとしたフェリクス様は、噴き出して笑い飛ばした。

 中央の大きな階段を上がり、ふと振り返って見るけど、誰もこちらを気にしていない。皆、忙しそうに行き来している。外から帰ってきたのか、これから出かけるか、外套を着ている方もいた。

 さらに進んだ先でも、大きな箱や紙の束を抱えいる人とすれ違ったり、騒がしい部屋の前を通ったりした。


 私の姿を見て嫌な顔をする人は一人もいない。

 これがお父様の働いている宮廷内であったら、きっと、奇異の眼差しを向けられたり噂話をされただろう。ここでも、そうなるんじゃないかと思っていたけど、もしかして、私が罪人だって伝わっていないのかしら。


 街でのように、療養に来ていることになっているのかもしれない。それなら納得の反応だけど、それって騙していることになるわよね。

 階段を上りながら、少し気分が滅入ってしまった。私は嘘をつかないと、まともに生きることも出来ないのかしら。

 

「どうした。疲れたか?」

「いいえ、その……皆様お忙しそうなので、遊んでばかりでは申し訳なく思えて」


 慌てて言いつくろうと、私を見たフェリクス様は足を止め、少し考える素振りを見せる。


「忙しそうに見えるか?」

「はい。とても」

「それほどでもないと思うが……祭りが近いから多少は忙しいからかな」

「お祭りですか?」

「ああ。秋の祭りは大きいからな。ダンジョン管理棟からも手伝いを出している」

「お仕事も忙しいのに、大変ですね」

「そうでもない。祭りが息抜きになるヤツもいる」


 苦笑を浮かべたフェリクス様は、再び階段を上がっていく。

 それから、お仕事の話を少し聞きながら歩き続けた。途中、厨房で飲み物の入った瓶とバスケットをもらい、そこに買ってきたサンドイッチの包みも入れる。まるでピクニックのような持ち物だわ。


 私たちはそのまま管理棟の奥へと進んだ。

 屋敷からもだいぶ離れ、さらに五階まで登ってきた。本当にこのお屋敷は広いのね。


 ふと廊下の窓に視線を向けると、大きな塔があった。


「フェリクス様、随分立派な塔ですね」

「ああ。今向かっているのは、あそこだ」


 にっと笑ったフェリクス様は、見てみろと言わんばかりに、その天辺を指差した。

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