第22話 心のこもったサンドイッチ

 サンドイッチ屋を覗くと、まだ幼さを残す少年がにこりと笑った。店番でもしているのかしら。


「いらっしゃいませ、領主様」

「ジョイ、売れ行きはどうだ?」

「今日も職人通りの親方たちが買いに来てくれました!」

「それは良かった。ジョイのサンドイッチは美味いからな」

「ミードさんのパンが美味しいからですよ」

「はははっ! それはそうだが、こうして作って売ってるのはお前だろう。今日は二人分頼むぞ」

「えへへっ。ありがとうございます! 今日はお二人分なんですね」

「ああ。彼女に食べさせてやりたくてな」

「……あ、あの、領主様。ご一緒のお嬢様は、その……新しい奥様でしょうか?」


 ジョイと呼ばれた少年は、ごにょごにょと小さい声で尋ねてきた。そうして私をちらり見ると、頬を赤くしながら慌てて頭を下げる。そんな様子を見たフェリクス様は苦笑を浮かべた。


「やっぱり、夫婦に見えるか?」

「は、はい!」

「残念だな。俺もそうなったら嬉しいんだが。彼女は、療養に来ているんだ」

「……お身体が弱いのですか?」

「はじめまして、アリスリーナ・レドモンドです。そんな大げさなものではないのですが」


 にこりと微笑み挨拶をすると、少年は目を丸くすると言葉をつまらせ、慌てて「申し訳ありません」と謝って手を動かし始めた。


 少年の手よりも大きなパンが均等にカットされる。バターを塗り、サラダ菜、ハム、チーズをてきぱきと慣れた様子で並べていく。手際のよさを見れば、彼がずいぶん長いことサンドイッチを、こうして売っているのだと分かった。


 まだ十五歳にも満たないくらいだろうに、もう働いているなんて。──少年の両親はどうしているのか想像すると、どうしても辛い背景を考えてしまい、心がきゅっと痛くなる。


 少年の仕事ぶりを黙って見守っていると、見る間に、美味しそうなサンドイッチが出来上がった。


「とても美味しそうですね」

「ありがとうございます!──死んだ母さんが言ってました。美味しいものをいっぱい食べれば元気が出るって!」

「……えっ?」

「僕のサンドイッチで、元気になって下さい!」


 油紙に包まれたサンドイッチが二つ並べられる。

 代金をカゴに入れたフェリクス様は包みを受け取ると、少年の頭をわしわしと撫でまわした。


「そりゃ、毎日でも買いに来ないといけないな」

「そ、そんな! 毎日は申し訳ないです。でも……またぜひ、来てください」


 無邪気な少年の笑顔に、私は釣られて笑った。


「ありがとう。きっとまた来ますね」


 少し小さな手を取って握りしめると、少年は照れくさそうに「お待ちしています」といった。


 ここでは子どもだって働いているのね。

 もうすぐ十八にもなる私が、ただ美味しいものを食べて毎日を過ごすだけなんて、やっぱり間違っているわ。魔女の烙印を捺されたからって、何もしないで静かに生きることに何の意味があるのか。


 見送ってくれた少年の笑顔を、しっかりと胸に刻んだ私は、ここで生きるために出来ることを探さないといけないと、改めて思った。

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