第35話 王女と勇者


 なぜ嘘だとバレた!? くそっ!


 俺が言葉に詰まっていると、彼女が続けて話し出した。


「貴方は、なぜ王族であるわたくしが、このように危険な場所を訪れたと思ってるのかしら?」

「王女だと!?」


 くっ、貴族だとは思っていたが、まさか王族だったのか。


「ええと……勇者を探しにだろ?」

「その通りです。では、どうしてわたくし達が、此処に勇者が居ると分かったと思いますか?」


「っ! まさか!?」

「そう、女神パルル様の神託が降りたのです……」


 王女はそう言うと、これまでの経緯を語りだした。


 彼女は魔王軍の侵攻により、日増しに国が荒れるのに苦悩し、毎晩テラスに出ては遅くまで、この世界であがめられる女神パルルに祈りを捧げていたそうだ。


 いつものように、深夜まで祈りを捧げ、遅い就寝をしたある日、彼女は鮮明な夢を見たという。

 気づけば彼女は豪奢な神殿に居て、目の前には世にも美しい女性がたたずみ、自らを女神パルルと名乗り、慈愛に満ちた表情で、こう告げたそうだ。


「王女よ、そなたの願いを叶えよう。魔王に匹敵する強さに成長するであろう勇者を数日内に召喚し、修行の場として難攻不落ダンジョンへ転移させます。そなたはその勇者をサポートし、魔王を倒す力をつけさせるとよい」


 女神はそれだけ言い残すと、神殿と共に静かに消え、王女が気づいた時には、自分のベッドに寝ていたが、彼女は喜び興奮して直ぐに飛び起き、国王が止めるのも聞かず、ダンジョンへ向かう手配を整えたとのこと。


「――というわけです。貴方は女神様によってダンジョンに転移降臨された救国の勇者様で間違いありません。わたくしには最初から分かっていましたわ」


 彼女は話し終えると、心当たりがありますよね? 的な意味深な表情で俺を見つめる。


 くそっ! あの女神! どっちにしろ、この難攻不落ダンジョンへ転移させるつもりだったんじゃないか!


「あのクソパルル……」


 俺は思わず小憎らしい女神を思い出して、つい口走ってしまった。


「貴様……女神様を冒涜するとは、不届きな!」


 俺のつぶやきがかんさわったのか、若い方の騎士が腰の剣に手を掛けてキレている。


「やめなさい。やはり貴方は女神パルル様にお会いしたことがあるのね。改めまして自己紹介をしますわ、勇者様。わたくしは、フランベ王国第二王女マカロンと申します。以降マカロンとお呼びください」


 彼女は紅いスカートの裾を持ち上げ、優雅に挨拶をした。

 くそっ、バレたものは仕方ない。適当に誤魔化して逃げるか。


「俺の名は……テントだ。仕方ない、白状しよう。確かに俺はクソパル……じゃなかった、女神に召喚されたが、了承はしてない。つまり俺は現在勇者ではないということだ。その証拠がこの足枷という訳だ。女神は俺が拒否したら足枷を付けやがったんだ。だから俺は勇者失格の烙印を押されたようなものだな。これが真相さ。はっはっはっ」


 俺は、女神をツンツンした罰で付けられたことは伏せて、尤もらしい嘘を新たに考えついたのだった。

 さすがに本当のこと言ったら処刑されかねないしな。

 まあこれできっと諦めてくれるだろう。ナイスだ俺!


「問題ありませんわ」

「はうっ!?」


 王女マカロンはちょっと考える素振りを見せた後、きっぱりと言った。


「だって貴方は……テント様は誰よりも強いから」

「いやいや俺なんて……」


 彼女は真剣な眼差しで俺をまっすぐ見つめる。


「テント様は、我々が魔物から逃げる時間を稼ぐ為、命の危険をかえりみずえてこの場にとどまり、身体を張って死守してくれました!」

「いや、それは足枷が……」


 彼女は構わず目に涙をためながら続ける。


「それにも関わらず、テント様は我々に対価を一度も要求する事も無く、立ち去ろうとしていますね? これほど勇者に相応ふさわしい方がいますか?」

「いやそれは……」


 面倒だからです。


「改めて王女マカロンとしてお願い申し上げます。どうか我がフランベ王国そして世界を魔王の暴虐からお救い下さい。勇者テント様……」


 彼女は静かに、しかし厳粛にそう言うと、おもむろに胸の前に腕をクロスさせ、すっと膝をつくと瞳を閉じ、頭を深く下げた。

 すると、アイリス、兵士二名も彼女の背後に控え、膝をつき頭を下げる。


 じりじりと静かな時間が流れる――



「はぁ……分かったよ。その代わり条件が一つある」

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