第34話 勇者のうそ


「そう、このお方が、わたくしの捜し求めていたですわ」

「……は??」


 何処かで聞いた、ろくでもないワードが耳に入ってきて、思わず間抜けな声が出てしまった。


「何ですと!? まさかこの変てこな身なりの男が? 姫様、何かの間違いではないですかな?」


 年配の髭の兵士が俺をジロジロと胡散臭そうに眺めながら言う。おじさんに見つめられても嬉しくないのだが。


「間違いありませんわ。確かにおかしな足枷をつけて、変な恰好で目つきも一見悪そうに見えますが、ゴブリンの大群とあのダークオークを、なんと素手のみで倒すのをこの目ではっきりと見ましたもの」

「むむ、にわかには信じられないことですが、魔物共が消えたのも事実……しかし姫様、それだけでこのおかしな男を勇者というのは早計な気も……」


 姫さん先程、見た事を公言しないと言っていたのを忘れてないか?

 面倒事は御免だ。どうにか、俺が勇者ではないと思わせられないものか……。


「勇者様かどうか判別するのは簡単なことです」


 俺が何気なくメイドさんの巨乳を見つめ真剣に悩んでいると、不意にそのメイドさんが余計なことを言い出した。


「あら、さすがわたくしの優秀な侍女じじょアイリスね! どうするの?」

「姫様、簡単です。本人に訊けばいいだけです。そうですよね?」


 あれ? メイドさんじゃなくて侍女だったの?

 道理で、どこか気品があるとは思ってたんだよね。

 身体つきもお胸以外スマートなので、戦闘もいけるのかもしれない。

 その侍女アイリスがクールな瞳で俺を見つめるなか、皆の視線が俺に集中する。


 こ、これは、どう答えるのが正解か……。

 

 彼等と関わると今後厄介事を押しつけられるのは目に見えている。

 ここは、尤もらしい作り話をでっちあげて信じ込ませよう。うむ。


「俺が勇者というのは、とんだ勘違いだ。実は俺は、遠い異国の旅人でな、町の酒場で呑み過ぎて酩酊しているところ、たまたま通りがかった美女にムラムラきて、ちょっとだけお胸をツンツンしたら、その美女が実は悪い魔女だったらしくて、怒りをかってこのざまという訳だ。な? 俺は不幸な災厄に見舞われた旅人で、勇者なんかじゃないんだ。信じてくれ!」


 我ながらよくできた作り話を迫真の演技で話し終えた。これで彼等も納得できただろう。

 と思ったのだが……なぜか彼等の俺を見る目はとても冷ややかであった。


「そんなおかしな話誰が信じるというの? もう少しまともな嘘をついたらどうなの?」


 姫さんが腰に手を当て呆れたように言う。


 なぜ嘘だとバレた!? くそっ!

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