第27話 決着


「これからが本番だ。さあバトルを始めようか」


 見上げる程の巨体に丸太のように太い手足。殺気をはらんだ威圧感。

 正直勝てる気がしないが、それでも俺はやると決めた。

 どうせ異世界に来たのなら、ハーレムの一つや二つ作らないで死ねるか!


 俺は軽くステップを踏み、身体の調子を確かめた。

 とても身体が軽い。羽が生えたみたいだ。

 次はシャドウボクシングの様にステップを踏みながらパンチを繰り出す。

 いい感じだ。

 自分の身体ではないかのように素早く動ける。

 ファイティングポーズを決め、息を整えた。


「よし、イケる。かかってこいやぁぁぁっ」


 俺が挑発すると、黒オークは咆哮しながら図体に似合わぬ速さで接近し、岩の様な拳を繰り出してくる。

 速いっ。

 俺は間一髪避けると、奴の横腹にパンチをぶち込んだ。

 だが、思ったよりもずっと皮膚が固く、拳が跳ね返される。


「くそっ、固い……」


 奴が身を捩り、左のパンチが俺を襲う。

 俺の右頬を掠め、血が飛ぶ。

 意識を持っていかれそうになるが、まだやれる。


 が、その後も奴の殺人級パンチは唸りをあげ、上下左右から次々と襲ってくる。

 それを、軽くなった身体を生かし、紙一重で躱す。

 一撃喰らえば、即終了のハードモードだ。

 何より、足枷が邪魔でほぼ移動できないのだから、まさに引くに引けない状況といえる。


 今は生きるか死ぬか、ただそれだけ。


 俺は奴の拳を躱しつつ、パンチを放つ。躱しつつまたパンチを当てる。奴に俺のパンチが効いている様子は無い。


 息があがってきた。あと何分避け続けられるのか。

 それでも俺は只ひたすら、パンチを奴の体に当て続ける。


 パンチパンチ、パンチパンチ。


 パンチパンチ、パンチパンチ、パンチパンチ。



 何度パンチを打ち込んだか分からない中、ガクンと俺の膝が地につく。

 ゼイゼイという音が聞こえる。どうやら息をするのを忘れていたようだ。

 体力の限界。


 ……だめか


 けてはいたが、いくつかいいのをもらってしまって、身体中が痛みできしむ。

 顔が腫れているのか、視界が狭く霞むなか、黒オークが左右に揺れて見える。

 俺は頭を振って意識を集中させると、もう一度奴の様子をうかがった。


 ん? 揺れているのは俺じゃなく、奴のほうなのか?

 よく見れば、黒オークは体にいくつも拳大のアザを作り、今にも倒れそうにふらついていた。奴は涎を垂らし、目も虚ろに見える。


「もしかして……俺が?」


 その時だ。


 ステータスパネルがまた勝手に開いたので見ると、新たに追加されたスキルが。


【スキル】

 ヘビーパンチ:一定以上のパンチを重ねると渾身の一撃を放てる。new!


 まじか。

 よし、最後のチャンスだ。

 これで倒せなかったら、もう俺は動けなくなるだろう。



 俺は、意識を右拳に集中させると、拳が白く輝き始め、力がみなぎるのを感じた。


 そんな時、目の前の黒オークは意識を回復したのか、両拳を振りあげ正に俺にとどめをさそうとする寸前であった。


 俺は構わず、奴の懐に入り込むと、残る僅かな体力をかき集め、奴のでっぷりとした腹へ、腰を入れた渾身のパンチをえぐるようにぶち込んだ。


「おらぁぁぁっ!!!」


 インパクトの直後、黒オークの腹はベコンとへこみ、おかしな奇声と共にもの凄い勢いでゴムまりの様に跳ねながらすっ飛んで行き、壁に激突した。


「終わった……」


 俺は全力を使い果たし、大の字にぶっ倒れた。


「見たかパルルゥっ、黒豚をやってやったぞぉぉぉっ」


 強敵を倒した興奮で、思わず大声で叫んでいた。


 しばらく休んだ後、黒オークがどうなったか気になり、よろよろと歩いて奴の飛んで行った先へと向かった。

 途中、引きずる鉄球が前より軽くなっているのに気づき、これ幸いと鎖を肩に掛けて、鉄球を背に担ぐ。




 ふらつきながらも、ようやく黒オークの飛んで行った場所まで辿り着いた。


「おっ? 何だ? 変なものが落ちてるぞ?」


 黒オークの衝突で出来た瓦礫の前に、三つのモノが地面に落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る