第26話 ラムネスプラッシュ


「ふふ、これが功罪の足枷の重さだ。思い知ったか! はっはっはっ……」


 俺が勝利を確信し、再び奴のブタ鼻をペシペシ叩いている時ふと足元を見ると、鉄球の白く点滅していた光が次第に弱くなりつつあった。


「え?」


 鉄球を見つめ、どういうことだと思っているところ、ブタ鼻を叩いていた手が空を切る。


 嫌な予感にブルッと震えると同時、頭上高くから凄まじい雄叫びが降り注ぐ。


 俺の本能がヤバイと警笛を鳴らす。

 瞬間俺は、横に全力で転がった。

 振り向くと、黒オークの巨大な足が地面に亀裂を作っていた。


「うっへぇぇぇっ……やばかった……」


 一瞬でも回避が遅れたらミンチになっていたところだ。

 俺は腰を抜かし冷や汗が止まらない。


 どうやら奴を本気で怒らせてしまったようだ。

 だがしかし、俺にはグラビティという強力なスキルがあるのだよ。

 残念だったな黒豚くん。ふっふっふ……。

 きっと気を抜いたのがいけなかったのだ。

 もう一度集中して、グラビティを掛けてから速攻でやってやる。


 いくぜっ!


「くらえっ! グラビティ!!」


 黒オークは一瞬ピクリと反応したものの、俺を血走った目でギロリと睨み、恐ろしい程の殺意を向けてくる。


 うそ……だろ……。


「グラビティ! グラビティ! グラビ……チ?」


 焦って早口で唱えるも虚しく、奴の丸太の様な腕から放たれた強烈ラリアットを胸に食らい、俺は敢え無くぶっ飛んだ。


 くそっ、やられた。身体がほとんど動かん。

 まずい……奴が近づいてくる。

 どうするどうする……やばいやばい……殺される。


 俺は死にたくない一心で、何かないかと辺りを必死に見回した。


 っ!?


 アレは何だ?

 少し離れた所に光るモノを見つけた。ラムネだ! しかも、そのラムネは水色に光っていた。

 そういえば、無我夢中で殴りまくっていた緑のゴブリンの中に、水色っぽいのもじっていたような。

 何はともあれ、ここは飲む一択しかないだろう。


 俺は光を失った重い鉄球に苦戦しながらも這いずって行き、ようやくラムネを手にした。

 息があがったが残る力で、ビー玉を例により指でズコズコ突くと、ビー玉が上手く落ちた代わりに、指と穴の間から中身が勢いよく吹き出し、全身に掛かってしまった。


「うっひゃぁっ! 冷たくて気持ちいいっっっ! ラムネスプラッシュかっ」


 って言ってる場合じゃない。

 俺はキンキンに冷えたラムネを一気に喉に流し込んだ。


「くぅぅぅぅぅぅっ! これこれっ、これだよ! げふぅぅぅっ」


 キンキンラムネの爽快感に打ち震えていると、背後から巨大な影が……。

 頭上から猛烈な圧が迫るのを感じ、俺は咄嗟に身体を投げ出す。

 直後、背後で轟音と砂礫。


 身体が軽い!? さっきまで全身痛かったのに、今は痛みが無いばかりか快調そのものだ。

 どういうことか分からんが、動けるようになったのは幸いだ。


 よしっ、こうなったら当たって砕けろだ!

 女神の思い通り、魔物にやられてはやらん。

 黒オークを倒してパルルをギャフンと言わせてやる!


 俺はゆっくり立ち上がると、砂礫の煙の中から姿を現し始めた巨大な敵を正面に捉え、拳を鳴らした。


「これからが本番だ。さあバトルを始めようか」

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