第12話 対決


 俺は一か八かの賭けに出ることにした。


 奴は再びヘラヘラと笑いながら近づいてくる。


「ちょ、ちょっと待ったぁっ! 俺は見ての通り武器を持ってない! それにお前は俺よりもずっといいガタイをしてるし、強そうだっ」 

「あん? 今更命乞いってか?」


 動きを止めたパンサーは、満更でもなさそうに、にやける。


「い、いや違う! 提案だ! ここは正々堂々男らしく素手でやり合おうじゃないか! それとも、その太い二の腕や腹筋は飾りか? 違うだろ?」


 実際奴の露出している筋肉は、プロレスラー並みだ。顔が引きつる程怖いが、平静を装う。


「……ぶははははっ! やすい挑発だが、のってやるよ。ちょうど誰かをぶん殴りたくてうずうずしてたとこだぜぇ。たっぷりいたぶってヒーヒー言わせてやるから、後悔すんじゃねぇぜぇ? ぶはははははぁぁぁっ!」


 そう言うと奴は、重そうな剣を捨て、俺の顔前で自分の頬を前に出し、それをちょんちょんと人差し指の腹でつついて、殴ってみろよと挑発してきた。。

 くそっ完全にナメられている! 脂ぎった横顔がすげぇ腹立つ。


 だが勝機は見いだせた。


「ほれほれ、特別におめぇから殴らせ……」

「そんじゃお言葉に甘えて……」


 俺は隙だらけのパンサーを軽く蹴り上げてやった。


 足枷の付いた右足でな。


「うごぉぉぉぉぉ……あぅ、あぅ、き、き、きさまぁ……き、汚ねぇ……」

「ん? ちゃんと素手だぞ? 蹴っちゃダメなんて言ってないし」


 内股でアソコを押さえて、産まれたての仔鹿の様に震えているパンサーに、俺は手の平をひらひらさせながら言ってやった。


「くっそぉぉぉっ、ぶっ殺してやる……」


 奴のゆるいネコパンチが飛んでくるが、俺は余裕で避ける。


「お前の負けだ。油断したお前が悪い。さて俺のターンだな……」

「ちょっ……ま」


 俺はニヤリとする。


 パンチパンチ! パンパンパンチ! パパパパパンチ!


 俺の高速パンチが面白いように奴の身体にヒットする。


「とどめだ……」


 腰を入れたパンチをほぼ白目の奴の頬にぶち込むと、奴は顔面をぐにゃりと曲がりナスの様に歪ませて、壁まで一直線に吹っ飛んで行った。


「……にしても、奴等見かけの割に弱かったな……いや、待てよ……」


 俺は手の平を見つめ、グッと握り込んだ。


「俺が……強くなってる……のか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る