第5話 夢のおわり


 俺はパルルの魅力的でぷるんとした小さな唇を奪った。


 うぉぉぉっ! なんてしっとりとしたぷるぷるっ! 唇を奪った俺の方が溶けてしまいそうだ。こんなの初めて……最高かっ!


 彼女は俺の予想外の行動によほど驚愕したのか、大きなブルーの瞳を揺らし混乱しているように見えた。


 ふふ、可愛いとこあるじゃないか……。

 おっと、紳士のキスは瞳を閉じるものだったな。

 

 なぜこんな無茶な行動をと思うのは素人考えだ。

 悪夢というのは、怖いと思う程に、より抜け出せなくなるものなのだ。

 つまり、先手必勝。


 そう、こうして瞳を閉じて精神を安定させ、震えるパルルの唇を吸っているのも、ひどい罰を受けるという未来の悪夢を解消し、まともな夢へとチェンジする作戦というわけだ。


 ふふ……俺天才。


 ん? パルルの舌が俺の唇をくすぐってきた!? ふふ、どうやら俺に陥落したようだとそっと目を開けると……ぶほっ! 頬を染めた婆さん!?

 あまりの衝撃に腰を抜かし見上げると、シスター姿の高齢の婆さんだった。


「なっ、どうなってる!? パルルが婆さんに!?」


 はっ……そうか! これも夢でよくある現象、突然人物が入れ替わるやつか! くそっ! なにやってんだ俺っ。邪念を捨て集中しろ俺っ。もう一回キスをやり直すんだ。これじゃあ悪夢と変わらないじゃないかっ。


 目の前には、頬を染めキスをせがむように目を閉じ、口をムニムニしているシスターの婆さん。


「素敵な殿方……もっと熱いキスを……早く……もっと」


 うっ……よしっ……シスターがパルルに、シスターがパルルに……


「……うおぉぉぉぉぉぉぉっ、やっぱムリだぁぁぁぁぁっ」


 俺は悪夢でもいい、もう一度パルルに会いたいと切に願った。



「どぉ? ちょっとは反省したかしら? そのシスターは幻覚よ」


 涙に濡れ、絶望している時、後ろから美しい声が。

 パッと振り返ると、待ち望んだ美しい女神パルルが、再び御降臨なされた!

 なぜかちょっと顔が赤い?


「パルルゥゥゥ……戻ってきてくれたぁぁぁっ、夢が覚める前にぃぃぃ、一回だけ、一回だけでいい、やらせてくれぇぇぇぇぇぇぇっ」


 俺はパルルの足元へしがみつき泣いて懇願した。

 ああ……キンモクセイのような芳醇な香りがする……クンクン。


「やらせるわけないでしょっ! 貴方には失望しました。いきなりわたくしの胸をもてあそんだばかりか、キ、キ、キスまで……貴方は勇者失格です。よって、貴方を難攻不落のダンジョンへと追放します。そこで魔物の餌にでもなるがいいわ」


 パルルが何かブツブツ言っているが、俺は彼女のスカートのすそをそっとめくり、覗き込んだ。


「っ!? なんと……」


 俺は驚愕し震えた後、気づかれぬようそっと裾を下ろした……。

 ごちそうさまです。


 夢の中はリアルよりもリアルでしたっ。


「……というわけで、貴方には死よりも恐ろしい恐怖を味わってもらうわ。ざまあないわね。いまさら泣いて謝っても遅いんだからね……でもぉ、どうしても勇者になりたいっていうなら……って聞いてるの!?」


 すまん、まったく聞いてません。どうせ夢だしね。


「ところで女神様は……その……履いてないんですね?」


 女の子の恥ずかしがる表情を見たくて、ちょっと意地悪を言ってみた。

 夢の中での羞恥プレイは初めてだ。


「っあ!? こ、こ、こ、この……変態がぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 一生ダンジョンを彷徨さまよってろやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 そう、俺は彼女にボコボコにされ、死ぬほどの痛みでようやく気づいたのだ。


 これは夢ではなく


 現実であることに――


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