04
「この辺りだと思ったんだけどな」
募集要項に記された地図を見ながら、まだ人通りの少ない通りを歩く。
この辺りは貴族の屋敷が多く、昼間は華やかに着飾った人々が楽しそうに行き交う。
私には縁遠い場所だ。もし昼間に面接だったら確実に浮いていただろう。
昨夜目を瞑り、次に目を開けたときは日が昇る前だった。
再び崛起そうになる瞼をなんとか持ち上げリビングに行くと、農作業の準備をしていた両親は既に起きており、デイヴィスは私のお弁当をこさえていた。
この光景ももしかするとしばらく見れなくなるのかもしれないなあ、雇用期間についても面接でちゃんと相談しよう。
大丈夫、シフト制で時間の融通が利くって書いてあったし!
ここから実家までそう遠くないし、寂しくなったら一泊くらい帰省しよう。
まだ何も始まっていないのに勝手にセンチメンタル。
もしかしてあれか? 宝くじを買って当選番号も出ていないのに勝手に当たった気になっている気なってる感じなやつ?
ちょっと恥ずかしい、落ち着け私。
「あっ! ここかな⁉」
概要に書いてある目印のガーゴイルを見つけた。
その反対側には立派な門。
周りの大きな屋敷は沢山立っているが、ここはけた違いに広い。どこのお宅だろうか。
しかもこんな早朝だというのに門番が立っている。
「ん?」
あれ、門番の人と目が合った。
しかもめっちゃ大股でこっちに近付いてくる。
「何か用か」
「ヘッ⁉ あ、あの、今日ここでバイトの面接を受ける予定なんですけど……」
「面接……ああ、お前がか」
よかった、どうやら話は通っていたらしい。
昨日の今日だというのに、あいからわずあのおじさんは仕事が早い。
「名前は?」
「クローリア・ヴァンクスです!」
「……合っている。なら案内しよう」
「ありがとうございます!」
よかった! なんとか会場に着いたんだ!
重厚な音を立てて開かれる門が、まるで屋敷の威厳を表しているかのようだ。流石だ、大手企業。
言葉少なく案内されるままについていくと、手入れの行き届いた庭にさしかかる。
「(すっごい……! まるでお城みたい!)」
行ったことないけど!
日頃は働くことに必死になっているが、私だって乙女だ。綺麗な花があると見に行きたくなるし、可愛い物や綺麗な建物にも人並みに興味がある。
ここに就職できたら毎日見れるのかと思うと、やる気がみなぎる。
「(やるぜ……やってやるぜ‼)」
憧れのオシャンティ給仕の夢はすぐそこだ! もしかしたら庭師ルートもあるかもだけど、こんなにモチベーションがあがる所に一時でも住めて高給貰えるならなんだってやってやる!
「ここにもうすぐ面接官が来る。しばらく待っているように」
「はい!」
案内されたのは一室の客間だった。
しつらえた調度品はどれも細かな細工が施されており、遠目から見るだけでも価値がある物だとわかる。
壁に飾られているのはこの屋敷の主人だろうか。ラピスラズリを使った青い絵の具がふんだんに使われたおり、絵の価値が底上げされている。
シャンデリアなんて、もしかしたら水晶が使われているんじゃないだろうかと疑ってしまうほど柔らかで、時折光の中に彩虹が見られる。
猫足のソファーに張られている赤いベルベットはうっとりするほど光沢を称えている。なにこの背もたれ、なんでソファーに曲線美なんて求めてるの?
金持ちの考えることは理解ができない……。
根っからの貧乏性である私は、既に目が回ってきた。
「お待たせしました」
部屋の中を立ったまま見渡していると、私が通ってきた扉が開かれた。
そこに立っていたのはいかにも貴族が好むような、意匠の凝らし服に身を包んだ初老の男性だった。
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