盤上遊戯~魚を捕り梟は飛んでいく
はに丸
第1話 後日譚①
びゅっと矢が放たれ、
「どうして、
生意気盛りの少年、
荀罃は今、この
士匄という少年は、才はあるが
『遠慮なく躾けてほしい』
と頼んできた。士爕は極めて厳しい父親であったが、士匄は学んでも反省しない。自儘なまま、優秀さだけを積み上げていくという始末である。士爕は、性格の矯正を荀罃に頼んだのである。
そこには、士爕なりの気づかいもあった。つい先日まで荀罃は捕虜として敵国にいた。九年間の虜囚生活は荀罃の人格に深みを与えたが、損失もある。長い時間、故国――
さて、この生意気で、荀罃の弱みを握ろうとする小賢しい弟分に答えねばならぬ。荀罃は少し笑み、口を開いた。
「私が未熟であったからだ。敵を討とうと走り、気づけば孤軍となっていた。私の至らなさによる。
冷静かつ平然と答え、微笑まで浮かべる荀罃は、しっかりと士匄に釘をさした。士匄が拗ねた顔でそっぽを向く。先達に言葉を乞いながらするような態度ではない。荀罃はきっちり殴った。この時代において教育に体罰はつきものである。さて、流れをぶったぎるが、当時の戦争は兵車――つまりは馬車が主力であり、御者と弓兵兼指揮官、これらを護衛する車右が乗る。指揮下には歩兵が七〇人前後。これが当時の戦闘単位、
ともあれ。
殴られても全く反省しない士匄が、さらに斬り込む。
「じゃあ、どうして自らを処さなかったのですか。わたしだったら耐えられない」
少年は芝居がかったしぐさでため息をついてさらに口を開いた。
「わたしは誉れある
弓を持ったまま、わざとらしく肩を揺すってため息までつくさまは、本当に小賢しい。しかし、言うことは少年の潔癖さであり、荀罃はかわいささえ思って苦笑した。
「それは私の生き方に対する問いだ。そういったものを聞くのなら、覚悟があるのかな? 汝は私の言葉を訓戒として受け止める覚悟でも?」
そうして、荀罃は的を指さす。
「覚悟を見せろ、范叔。あの的の中央に十回当てろ。中央の印からずれれば汝は覚悟分からぬ愚鈍な恥知らずとしてこれから扱う」
士匄が幾度か外した円形の的である。同心円がいくつもあるその中央には、小さな黒丸が描かれている。
「私が色々と示す場所ではない、書いてある中央の印だ。たやすいだろう?」
禽獣の光を目に宿し、荀罃は笑った。士匄が少々怖じる顔をしながら、頷いた。
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