06.
「澄海玲ちゃん見てこれ!あたしのお気に入りキーホルダー!」
「はあ、可愛いですね」
「澄海玲ちゃん見てこれ!綺麗でしょこのネイル!自作なんだよ!」
「はあ、綺麗ですね」
「助けて咲良ちゃん!澄海玲ちゃんが塩対応してくる!」
ちょっと面白かったから黙って見ていたのは内緒である。入学式が恙なく終了して少し時が経ち、今は私達の教室でゆっくりしているところだ。黒神先生は私達を教室まで引率したあと、今後の授業で使用する教科書等を取りに行っている。
「あ~お姉ちゃん心配だなぁ、澄海玲にちゃんと友達が出来るか心配だなぁ~」
「……」
「澄海玲が友達作らなかったら私、お母さんになんて報告すれば良いかなぁ~」
「分かりました!分かりましたよ!……もう!」
「いえーい」
「イエーイ!!」
私の泣き落とし(嘘)に根負けした澄海玲から白旗が上がる。伊達に澄海玲の姉として日々を無為に過ごしていた訳ではない。澄海玲の弱点ぐらいしっかり把握しているのだ。そう、完璧超人である澄海玲の弱点は唯一つ、私のおねだりを断れないという事。
「篠宮さん……とお呼びすれば良いですか?」
「緋音って呼んで!」
「……緋音さん、これからよろしくお願いします」
「うん!よろしく!」
記念すべき澄海玲の初めての友達が誕生した瞬間である。恐らく緋音にとっても初めての友達だろうから、二人揃ってめでたい日となった。
「咲良ちゃんも今日から友達ね!てかもう友達のつもりだけど!!」
「……私も?」
「あたぼーじゃん!!」
「私に友達になれと勧めておいて、姉さんは無関係でいる……なんてことはありませんよね?」
「む……言う様になったね澄海玲」
確かに澄海玲の言う通りで、それでは筋は通らないと私も思う。……どうやら、いつからか一歩引いて澄海玲のことを見守る保護者ポジの気分に浸っていたらしい。澄海玲に友達が出来ればそれで良いと、自分のことは二の次になっていたようだ。
「……分かった、私達は今日から友達。緋音も総一郎も大輝も澄海玲もみーんな友達」
「──!!」
「……俺達もか」
「うん。ていうか私達以外で友達作れる?喋れないのに?」
「ムリ!」
「でしょ?だから私達で友達になるの、この五人でなら友達になれるから」
「……そうだな、俺もお前達と友達になりたい」
「オレも構わねぇが……ていうかよ」
「うん?」
「友達って、何するんだ?」
「……カラオケとか?」
「なんだそれ?」
「えっ知らない?」
「知らねぇ……訓練ばっかで調べる時間もなかったしな」
「私も訓練が楽しかったので……そっち方面はあまり調べてませんね」
「あたしも~!」
「娯楽に現を抜かす暇は無いと両親に指導されていたから俺も分からん」
「……ちなみに緋音の見た目とその文字は誰から教わったの?」
「施設の人が折角可愛いんだから着飾らなきゃ駄目よ!って教えて貰った!ギャル文字も!」
「その人に他に色々教えて貰わなかったの?」
「教えて貰おうと思ったんだけど全然姿見せなくなっちゃった!」
「あぁうん……てかギャル文字って言うんだね、あれ」
余計な事を教えるなと怒られてクビにでもされてしまったのだろうか。特殊な環境に居た所為で普通の遊び方というものを習っていない私達である。学年主席の澄海玲であってもそれは例外ではなく、返答に窮する様子を見せていた。こんな時こそ姉として格好良いところを見せたいところなんだけど、それも難しい。
「う~ん、私も知識があるだけで経験したことないんだよね……」
虫食いだらけの現代知識さんによると、年頃の子供はカラオケで歌ったり、ボウリングで青春を謳歌したり、タピオカを飲んでるところを写真に撮ったり、恋愛映画を観て一緒に泣いたり、プリクラ撮って交換したりするらしい。
「ボウリング……?」
「プリクラ……?」
「タピオカ……?」
「駄目だこいつら」
「すまん、待たせ──……なんだその顔は?」
どうしよう、と悩んでいたところへ救世主が現れた。そうだ、分からないのであれば、分かる人に聞けば良いのだ。私達の期待の眼差しが怪訝な表情の黒神先生に注がれる。
「黒神先生、友達って何をすれば良いんですか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「生憎だが、私もお前達と似たような生き方しかしていない。お前達には及ばんが、隙あらば暴れようとする大蛇を調伏させる事に全力を注いでいたからな」
頼みの綱であった黒神さんでもそう言った経験は無いらしい。そういえば大蛇が宿った子供は五歳頃から影響が出始めると母が言っていた気がする。先生も苦労してきたんだなぁと、少しばかり親近感が増した。
「部下や同僚達とは何度か食事を共にしているが……それを友とは呼べんか」
「気軽に連絡を取り合うとか……街に一緒に出掛けてるなら友達って呼んでも良いんじゃないですか?」
「ふむ……それなら一人だけ心当たりがある」
軍に入隊してからの知り合いらしいその人とは、年に数回あるかないかの貴重な休日にお茶を飲んだりする仲なんだとか。尤も、最近はお互い多忙の身でここ一、二年程は顔を合わせていないらしいけれど。
「今は北海道へ出向いている、お前達も名前ぐらいは聞いた事がある筈だ」
「私達が知ってる人で」
「北海道に出向いてる人?」
「……誰でしょうか?」
緋音、澄海玲と顔を見合わせ、思考を巡らせる。
黒神先生の知り合いとなれば軍の関係者でも階級の高い人物だろう、少なくとも黒神先生と同じ階級の大佐はありそうだ。その中で名前が知られているぐらい有名な人となれば候補もかなり少なくなる筈。その中で私達が知っていそうな人物となれば……。
「あっ、巨神の人?」
「そうだ。
「先生に友達がいたとは……ビックリ」
「咲良、最近のお前は随分と口が緩いな……丁度良い機会だ、その性根を叩き直してやろう」
「えっ」
「姉さん……見守っていますので頑張ってください」
「す、澄海玲?お姉ちゃんを見捨てるつもり?」
「安心しろ、今日の夕飯までには寮に帰らせてやる。行くぞ」
「ちょっ……た、助けて緋音」
「センセー!咲良ちゃんだけずるい!あたしも行く!」
「俺も行って構いませんか?先生」
「オレも行くぜ」
「勉強熱心な弟子共ばかりで先生は嬉しいぞ、なぁ咲良?お前達も来い、纏めて面倒を見てやる」
「このクラス自殺志願者しかいないの?」
女性にしては高身長な先生にひょいっと小脇に抱えられた。抵抗を試みたが、軍人らしく鍛えている先生に歯が立つ訳もなく、されるがままぞろぞろと教室を出て何処ぞへと向かい始める。この日に限って薄い衣服を着ているからか、密着すると色気のある香水の香りに包まれて、同性なのに少しドキドキしてしまったのは内緒にしておこう。
(えっ……この状態で行くの?)
廊下は静寂に包まれており、私達以外の姿は見られない。他の教室はまだHRの真っ最中らしく、真剣に担任の説明を聞く姿が窓越しに確認出来た。当然、そんな状況で廊下を歩けば否が応でも注目を集めるもの。
(……は、恥ずかしい)
顔が熱い。きっと私の顔は茹蛸のように真っ赤に火照っているに違いない。私に出来るせめてもの抵抗は両手で顔を覆い隠すぐらいだが、それでも羞恥心は湯水の如く溢れ出てくる。それもこれも全て黒神先生の所為だ。この恨み、いつか必ず晴らしてやる。
『咲良ちゃωヵワィィ~!!カゝぉまっカゝナニ″ょ~!!』
トドメとばかりに緋音が携帯の画面を見せながら煽ってくる。喋れないからってギャル文字を見せてくるのはやめて欲しい。指の隙間から画面を見たら何が書かれているのか何となく理解出来てしまった自分にも腹が立つ。とりあえず、緋音には後で八つ当たりするとしよう。
この後、修練場で全員が黒神先生にこってり絞られたのは言うまでもない。
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