第38話

2035年。10月1日。

 アメリカ、ブロードウェイ。

 ゲネが終わった。あとは本番を迎えるだけ。それにしても、演劇界最高の場所。

 ステージの傷は今まで公演された作品が積み重ねたもの。とても味わいがある。

「ここまで本当に来れたね」

 真里亜が話しかけてきた。

「そうだな。10年前はここに立っているとは想像もしてなかった」

「だね。あ、そう言えばさ。劇団を作った理由の竜騎士シリーズのオーディション結果はどうだったんだけ」

「……書類落ちだ。聞くなよ」

 思い出したくもない。一次は通ると二重丸と思っていた。でも、書類審査でばっさりと落とされた。あの時、現実は甘くないと教えられた。

「そっか。そうだった。惨敗の涙だったもんね」

「うるさい」

「でも、こうやってこのステージに立つ事が出来るんだからいいじゃん」

「そうだな。劇団を作ったらいいじゃんって真里亜が言ってくれたおかげだな。感謝してます」

「照れるじゃん。でも、一つ悲しい現実をあたしもここで知ったの」

 真里亜は落ち込みながら言った。

「なんだよ」

「どこに言っても金の延べ棒が売ってないんだよ」

「当たり前だ。ここはアメリカのニューヨークだ」

 やっぱり、真里亜のマイペースさは最強だ。

「だよね。そうだよね。アメリカンだもんね」

「そうだ。アメリカだ。沢庵食べられなくて変なミスするなよ」

「それは大丈夫」

 真里亜はサムズアップをした。

「それなら安心した」

「うん。アメリカの人達にあたし達の最高の舞台を見てもらおうね」

「あぁ。当たり前だ」

 俺達の演劇人生まだまだ続く。映像などの様々な媒体でも芝居はする。プロの役者だから。でも、俺達の原点はこの舞台だ。

 板の上で芝居をする。いつ演劇人生が終わるかは分からない。でも、出来るだけ板の上で芝居をしたい。だって、演劇が好きだから。


            

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