第12話
レッスンスタジオ52で俺と二重丸は真里亜が来るまでの間に柔軟とか二人で出来る事をしていた。はぁ、全く集中出来ない。オーディションを受けられないショックが心にこびりついている。何かをする度に勝手に溜息がこぼれてしまう。それは俺だけじゃない。二重丸も同じだ。二人でこのレッスンスタジオ52の雰囲気を暗く暗くしている。
「若人よ、青春してるかい?」
ジャージ姿の真里亜がふざけた事を言いながら、レッスンスタジオ52に入って来た。
「してないよ。残念だけど」
「僕も同意見」
俺と二重丸は再び溜息を吐いた。たぶん今日この学校で溜息を吐いたランキングをつけたら俺と二重丸は同率一位だろう。
「夜の部屋とかけまして涙と解きます。その答えは両方くらいでしょ」
「暗いと泣くのCRYをかけてるのか?」
「YES。落ち込んでも、ツッコんでくれる龍虎っち最高ね」
「そりゃどうも」
これ以上溜息を吐いたら申し訳ないのは分かっている。けど、変えられない現実を受けいれる程まだ大人じゃないのも事実だ。
真里亜は俺と二重丸の前に座った。
「何かあったの?」
「……悲しい現実を知ったんだ」
「僕らはまだ何も知らなかったんだよ」
「何それ?話してよ」
真里亜は話を聞きたがっている。……話してみるのもありかな。俺達が知らないだけでオーディションを受けれる方法を知っているかもしれない。
「俺達の小さい頃からの夢、竜騎士シリーズのオーディションが受けられないんだよ。オーディション許可認定をもってないから。それで落ち込んでるんだよ」
「……あー許可認定ね」
「僕ら新入生は9月まで劇団とかに所属出来ないからもらえないんだ」
「えーっと、それじゃ二人は許可認定が欲しいって事?」
「簡単に言えば、そう」
「おっしゃるとおりです」
「そんなの簡単じゃん。劇団を作ればいいんだよ」
「劇団を……」
「作る?」
俺と二重丸は開いた口が塞がらないでいる。そんな発想浮かばなかった。その手があったのか。一点集中で物事を考えるのは駄目だな。
「うん。新入生が劇団を作ったら駄目って言う校則はなかったはずだよ。生徒手帳を見るべし」
「調べるからちょっと待ってくれ」
「僕も調べるよ」
「あいさ。フリーズしとくよ」
「フリーズの使え方は間違えてる。それならステイだ」
「そうとも言う」
俺と二重丸はレッスンスタジオの棚に置いているリュックを取り出した。リュックを床に置き、ファスナーを開ける。リュックの中に手を突っ込んで生徒手帳を探す。
二重丸も俺と同様にリュックのファスナーを開けて、生徒手帳を探している。
「これでもない。これでもない。あーでもない。あ、これだ」
このサイズ、このフォルム。これはきっと生徒手帳だ。俺は掴んだ物をリュックから取り出した。
「思ったとおり」
手に取ったものは生徒手帳だった。
「僕も見つけたよ」
二重丸も俺と同じぐらいのタイミングで生徒手帳を見つけた。
「一通り目を通すぞ」
「うん。了解」
俺と二重丸は生徒手帳を開いて、書かれている事を黙読する。
新入生が劇団及び映画部を作ってはいけない……そんな事は書いてない。ページを捲っていってもそんな言葉は出てこない。
最後のページにも書いていない。いや、見落としているだけかもしれない。確かめないと。もう一度、最初のページから黙読する。
……やっぱり書いてない。真里亜、君は俺達の救世主だ。中二病で言うとメシアだ。
「俺の生徒手帳には書いてない」
「僕の生徒手帳にも書いてない」
俺と二重丸は理由も分からずに抱き締め合った。なぜだか、とても嬉しい。それに0だった可能性が0.1になった。それはほんの僅かの違いかもしれない。でも、俺たちにとってはかなりの差だ。
「ずるい。まぜて」
真里亜が立ち上がり、こちらに向かって来る。
俺と二重丸は阿吽の呼吸で、離れた。
「え、なんでー」
「いや、なんとなく。なぁ」
「うん。なんとなく」
「酷くない?」
「酷くない。でさ、劇団ってどう作るんだ?」
「話を変えた……まぁ、いいんだけど。劇団はたしか5人以上の劇団員が必要。それにオリジナル台本で劇団認定公演をしないといけなかったはずだよ」
「ここでも認定かよ」
「僕らは認定に取り付かれてるの?」
「で、どうすんの?」
真里亜は目を光らせて、訊ねてきた。
「それは作るよ。なぁ」
「当たり前だよ。劇団を作ればオーディションが受けれるんだし」
「じゃあ、あたしもま、ぜ、て」
真里亜は子供みたいに言った。
「お、おう。てか、いいのか?」
一緒に居てくれるならこれ程に心強い味方はいない。でも、真里亜に何の得がある?中等部から上がってるからオーディション許可認定をもらってるはずだし。
「うん、いいよ。楽しそうだし」
「……本当にいいのか」
「いいから言ってるんじゃん。しつこい男は嫌われるよ。まぁ、龍虎っちなら多少しつこくてもいいけどね」
「そうか。それなら頼む」
「虎ちゃんって……」
二重丸はなぜか溜息を吐いた。
「なんで、溜息吐くんだよ」
「ううん、何でもないよ。きっと、分かる時がくるさ」
「どう意味だよ」
二重丸の言葉の真意が分からない。俺が何か変な事を言ったか?
「なんでもないよ。よろしくね、真里亜ちゃん」
「グッチョブよ」
真里亜は二重丸にサムズアップした。
「話はまだ途中だろ」
教えろよ、気になるだろう。二重丸はたまにこう言う態度をする時がある。でも、その時はたいがい俺がへまをしているらしい。何かしたのか、俺は。
「まぁまぁ、それは後にして。オリジナル台本はどうするの?」
「いや、後にすんなよ」
「小説コースや脚本家コースの子に頼む?」
「えーっと、無視しないで」
あれ?この二人には俺が見えてないのかな?おかしいな。さっきまで普通に話をしてたのに。
「困ったね。僕まだそっちの知り合いいないよ」
「あたしもあまり関わらないからいないな」
「あのー、俺1人知り合い居る」
「え、本当に?虎ちゃん?」
「もう人脈を作ってるの?」
二重丸と真里亜は俺の発言に驚いた。そこまで驚く事か。てか、意図的に俺の話を無視したな。今度、何かで仕返ししてやる。
「……まぁな。想綴師シリーズの美島先生って知ってるか?」
「知ってるよ。あのベストセラー作家さんだよね」
「あたしも読んだ事ある」
「その美島先生がこの学校の生徒なんだ。それも俺の隣の席の子がな」
「え、マジで」
「驚きの雨あられ」
「きっと、頼めば台本を書いてくれると思う。それに劇団員にもなってくれるかもしれない。だって、別に劇団員でも絶対に劇に出ないといけないって訳ではないだろ」
「うん。座付きの脚本家をしてる子もたくさんいるからいいと思う」
「じゃあ、決定だ。頼もう」
「これでここに居る僕らと仮の美島さんを合わせて四人か。あと1人足りないな。真里亜ちゃん入ってくれそうな人居る?」
「いないいないばー」
「どう意味?」
二重丸は首を傾げた。
「居ないって意味だ。だよな」
「うん。まだ丸丸ちゃんにはこの高等テクは理解できないようね」
「理解出切るように精進します」
「よろしい」
急に意味の分からないコントみたいなことが目の前で起こった。俺はこれに対しては何もつっこまない。つっこめば火傷をしそうな気がしたから。
「……あ。僕入ってくれそうな人一人居るよ」
「え、本当か?」
「まぁ、入ってもらう為には虎ちゃんに頑張ってもらわないといけないんだけどね」
「……俺が頑張る?」
どう言う事なのだろう。なんで、俺なんだ。説明をしてくれ。でも、劇団を作るためだ。どんな事でもやるしかない。たとえ、恥ずかしい事であっても。まぁ、二重丸が俺に恥ずかしい事をさせないのは分かってる。それは昔からの付き合いで推測できる。
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