第13話

二時間が経った。自主練が終わり、真里亜は女子寮に戻った。

 二重丸の指示でレッスンスタジオ18に向かっている。どうやら、さっき言ってた劇団に入ってくれそうな人がいるらしい。どんな人なのだろう。俺も知っている人か。全然想像が出来ない。

 レッスンスタジオ18が見えてきた。すると、そのレッスンスタジオ18から二重丸が出て来て、俺に駆け寄って来た。

「今から僕が言うとおりに言ってね」

「え、あ、うん」

「じゃあ言うよ。どうしても、劇団を作るには君が必要なんだ。こんな事頼めるのは君しか居ないんだ。だから、頼む。力を貸してくれって」

「は、はぁ?それを言うのか?」

 なんだよ、そのドラマみたいな台詞は。この台詞から読み取れる事が一つだけある。相手はきっと女性だ。女性に違いない。

「うん。そうだよ。劇団を作るためだよ」

「……あー仕方ないか。劇団を作るためだもんな」

「絶対に逃げちゃダメだよ」

「逃げるはずないだろ。ま、任せろ」

「さすが虎ちゃん。男の中の男だよ」

 二重丸は俺の背中を叩いた。思った以上に二重丸の体重が手に乗ったのか、背中がかなり痛い。でも、軽く叩けとは言えないから我慢した。

「お、おう」

「じゃあ、行くよ」

 レッスンスタジオ18の前に着いた。中に居る人が見える。

 ……うーん、あれ。中に居る人はご存知の方だ。それもかなりご存知の方。いわゆる幼馴染。他の言い方で言うと腐れ縁。

「えーっと。二重丸。彼女で間違いない?」

「うん。そうだよ。恋歌ちゃん。嬢之内恋歌ちゃんだよ」

 二重丸は笑顔で答えた。その笑顔には悪意をまったくない。サイコパスなのか。10年以上ずっと仲の良い親友だけど、サイコパスなのか。

「ちょっと違う人探そう。他に入ってくれそうな人が居るはずだよ」

「ダメだよ。逃げちゃ。さっき言ったじゃんか。逃げないって」

「……はい。言いました」

 たしかに言いました。言いましたけども嬢之内とは知らなかったんですよ。もしかして、わざと名前を言わなかったんだな。きっと、そうだ。

「はい。頼んで来て」

「……了解しました」

 俺は恐る恐るレッスンスタジオ18のドアを開けて、中に入った。

 嬢之内が俺に視線を向けてくる。あれ、なんだかちょっと目つきが違う気がする。女子感がする。乙女感って言えばいいのか。

「おう。どうも」

「呼び出した理由は?」

 嬢之内が訊ねてくる。

「……聞いてほしい事があるんだ」

「き、聞いてほしい事?」

 嬢之内の声が上擦った。やけに普段とは違うな。あの二人が居ないからか。いや、そんな事考えている暇なんかない。

 普通のお願いの仕方だったらきっとOKしてくれないだろう。これは日本人だけが許された頼み方をするしかない。

 俺はその場で、正座になった。

「ど、どうしても、劇団を作るには嬢之内が必要なんだ。こんな事頼めるのは嬢之内しか居ないんだ。だから、頼む。力を貸してくれ」

 顔を床につけた。そう土下座をしたのだ。頼む、OKって言ってくれ。でも、ちょっと待てよ。これって気持ち悪がられるかもしれない。

 ……失敗か。他愛もない会話をしてから雰囲気を作ってした方がよかったか。でも、嬢之内とどんな話をすればいいか分からない。

「……ウチじゃないとダメなんだな」

 俺は床からゆっくり顔を離して、嬢之内を見た。嬢之内の顔は赤くなっている。な、なんでだ。俺の方が顔を真っ赤にしたいところなのに。

「あぁ。嬢之内じゃないとダメだ」

「……わかった。力を貸してやるよ。もなとりさにも声かけとく」

「あ、ありがとう」

「じゃあな。また明日」

 嬢之内はレッスンスタジオ18から去って行った。

 ……うん?これってOKって事だよな。よ、よっしゃ。

「よっしゃ。何か分からないけどやった」

 俺は飛び起きて、喜んだ。

「成功したんだね。よかった」

 二重丸がレッスンスタジオ18に入って来て、安堵している。

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