第30話 【閑話】自称副官の嘆き

 心からお慕いしていた方が――我らの王が消滅した。

 私の目の前で倒れ、塵となった。信じられなかった。あの女が――人間如きが放った力で。

 そんな馬鹿な。これはあの方の悪戯だ。きっと私を揶揄っているのだと、百年くらいはそんな風につらつらと考えていた。


 ……それなのに。

 私がどんなに呼びかけても、泣いて喚いても、あの方の声を聞くことすらできなかった。

 ああ、もういらっしゃらないのだ――そう思うと、自分で自分の手足を引きちぎりたいような、目に映る全てのものを切り刻んでやりたいような、どうしようもない怒りが込み上げてくる。

 聞き分けのない出来の悪い魔物たちをいたぶっても、気を紛らわせることはできなかった。


 それからは何をするにも億劫になった。

 もしかしたらこれが、あの方がおっしゃっていた『退屈』なのかと思うと、胸の奥の方から何かが込み上げてきた。

 それを感じたのは突然だった。体中が震えて仕方がなかった。

 あの方がいらっしゃる!!

 復活なさったのだ! まごうことなきあの方の気配!


 ……ああ早く! 早くこちらへ! 私の近くに! また私をお側に! どうか! どうか!

 私は待った。ただ待ち続けた。それなのに、待てど暮らせど、一向にこちら側へ近づく気配が感じられない。


 …………!

 何ということだ。あの壁のせいで戻ってこられないのだ!

 ええい! お迎えに上がらなくては。

 あの壁が邪魔だ。

 長い間、完全に意識から抜けていたが、あの壁は、どうして今もあそこにあるのだ?


 アイツら魔物を使って壊してみるか……。

 久しぶりに同族魔物をなぶり殺して、死ぬ刹那の怨念を壁に塗りこんでやった。

 息も絶え絶えの魔物たちの残骸を刷り込んでみたりもした。


 大聖女だったか? あの女の垂れ流した力を徹底的に汚してやる。

 ムカつくことに、最初の十年は壁に何をしようとびくともしなかった。魔物の死骸などは一瞬で消滅した。


 ――が。

 徐々に壁が拒絶する力を失ったようで、穢れたものが染み込むようになった。

 ……あと少しだ。ふふふふ。


 それにしても――。

 壁ので人間たちに混じって、あなた様はいったい何をされておられるのです?

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