「〜♪ 見てみましょう 最初からすべての ハジマリを 小さなできごとから 大きな変化へと──」


アラームを止め、起き上が──ろうとしたところで、右腕に絡まるものに引き留められる。

「んー、逃げるなー、卑怯者ー」

「うるせえ起きろ。いや起きなくても良いから離せ」

「んー……」

摑む力が弱くなったので引き抜く。


やれ、朝ごはんにするか。


〈piー、piー、piー〉


オコメガタケテル!

あらほんと。

まあ、もちろんセットしたのは自分だが。


しかし丁度いいタイミングでお米が炊けた。よくかき交ぜ、タオルを被せておく。冷凍庫からベーコンを取り出し、片刃包丁の切れ味と腕力切れ味に物を言わせ、4枚のスライスを切り出す。


換気扇を点け、小さいお鍋に水を張り火に掛ける。

お湯が湧くまでにフライパンに油を引き、ベーコンを炒める。ぱちぱちと小気味よい音とともに霜が溶けていく。卵を落とし火が通ったところですぐ平皿にあける。


小鍋の火を弱めて味噌をして入れ、白だしを少し入れる。お豆腐を切って容れ少し湯掻ゆがき、火を止めて乾燥わかめをぶち込む。

小タオルを取り、お茶碗にお米をよそう。

汁椀に味噌汁を容れ、"朝ご飯、になったものたちをテーブルに運ぶ。


「ごはんですよ!」

「……食べる」

布団からもぞもぞと這い出し、泥のように起き上がる。

椅子に座り手を併せる。


「「いただきます」」


もそもそと朝ご飯を食べる妹君を眺めながら、今日の予定について話す。

「今日は取り敢えず、ひなが二週間程生きていけるようにある程度の買い物をします。ついでに食事やらなんやらもね。あと小夜さやちゃんたちにお礼の連絡等をするように。以上かな」

「ふぁい……むがむが」

まあ間違いなく覚えていないだろうから何度かリマインドはするつもりだ。


朝ごはんを終え、二人の食器を片しながら昨日のやりとりを思い出す。


どうやら新幹線のチケットを用意したのは陽向ではなく、心配した陽向の友達だったらしい。家に着いてすぐ、そのうちの一人から俺宛に連絡があった。


         昨日


  お兄さん、陽向はそちらに 

< 届きましたか?      22:56


        ああ。お陰様で。    

        御丁寧に元払いで届いたよ

  既読 22:58 。            >


         今回は世話を掛けたな。 

   既読 22:58  切符代は後で払うよ。  >


  いえいえ、私達が勝手にや 

< った事ですので!     22:58


  そんなことよりお兄さんは 

< GWは帰って来ますか?  22:59


        いや、イベントとかもある 

  既読 23:02 し、今回は帰らないかな。 >


<(そうですか)23:03


<(次はいつ帰ってきますか?)23:03


    既読 23:12(お盆過ぎには帰る予定)>


< じゃあその時にでも何か奢 

  ってください!      23:12


           既読 23:15(いいよ)>


<(わーい。ではまたお盆に!)23:15

  👍



とまあこんな感じである。


新幹線のチケットなぞ決して安くはないと思うが、それだけ愛妹は愛されていると言いうことだろうか。

その愛されているという我が家の我儘姫は、洗い物をしている間にベッドの中へと戻っていた。

まあいいか。

今日は土曜日だしゆっくり休んでも誰も文句は言わないだろう。


冷蔵庫のピッチャーを取り、タンブラーに水出しのルイボスティーを注ぐ。

デスクに座り、プレイステーションを起動する。

この時間はあんまり人が居ないから原神でもするか。


気の抜けた冷却ファンの音とともに、穏やかな朝の時間が流れる。



結局陽向が起きたのは昼を回って1時を過ぎた辺りだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る