第二十話 どうすれば
私たちは、よさこいの太鼓を叩いてもらおうと、お願いしにここまで来たのだ。
何か起きた時のためにと頼み込んで同行したはずが。場の雰囲気に飲まれ、止められなかった。痛恨のミスに、私は頭を抱える。
「ほう、ならば、実力行使か。お前は同族なのだから、我も遠慮せぬぞ」
しかも、春宵さんは黎明さんに向かって、瞳をギラつかせる。これは本当に良くない展開だ。よさこいは、強制的に踊らせるものではない。
私は、それで苦しんだ子を知っている。
「ままままま、まって、ください!」
今までで一番の大声。酷い慌てっぷりのせいか、冒頭は変などもりになってしまった。
それでも、ここは止めないといけない。
「春宵さん、嫌がる人に無理矢理は駄目です」
「うーむ。でも、そうしたら、太鼓の打ち手はどうする?」
私はうぅんと唸った後、こればかりはどうにもならないと頭を横に振った。
「仕方が無いですが、別の方にお願いしましょう」
「はあ!? 俺の代わりがいると思ってんのか!?」
断られたら他の人を探すという、当たり前の提案だった。
しかし、黎明さんにとっては、もう何もかもが気に食わないのだろう。大声で怒鳴られて、私は思わず身体をビクッと跳ねさせる。
「黎明、お前がやらないなら、誰かがやるだけではないか。何故怒る?」
「俺ほどの打ち手なんて、居ないからな。簡単に代わりを見つけられるって、言われんのは腹立つだろ!」
なんと、理不尽な。
私と春宵さんは、互いの視線を合わせる。彼の目には、どこか呆れが浮かんでいた。
黎明さんは今もぐちぐちと言葉を吐き散らしている。
私は春宵さんの腕から下ろしてもらうと、酷く不機嫌そうな黎明さんへと身体を向ける。
「無知で申し訳ありません。どうすれば、よいでしょうか?」
「一白!」
ここまで言うのだから、黎明さんの中に丸く収まる方法を持っているはず。私は頭を下げた後、彼の考えを尋ねた。春宵さんの戸惑ったように、私の肩に触れるが、私はそのまま頭を下げ続けた。
「そんなん、そのっ、あー! そういうところが腹立つな! それぐらいお前らで考えろ!」
——そう言うわけでも無かった。
頭をすぐに上げる。流石にこう言われてしまえば、私には為す術がない。
「黎明。いい加減にせぬと、幼馴染みとはいえお前の喉を掻っ切るぞ」
「元は、お前のせいじゃねぇか!」
「なんだと?」
「若様は正しい事を、言っただけだろ!」
不毛なやり取りが始まり、いがみあう男たち三人。何をやっても、こうして喧嘩へと転んでいく。
東雲さんは今も気絶したままであるため、私一人ただ取り残されてしまう。
もう、どうすればよいのだろうか。
この世界にはCDはないので、必然的に生演奏しかない。少なくとも、リズムを取れる太鼓は必要なのだ。
そして、全く関係ないけれど、よさこい祭りで、太鼓等の楽器の演奏者は正直格好いい。
太鼓は大きく響き、力強く、合図としても活躍する。
どんな楽器よりも目立つ存在だ。
前世の話だが、ステージでの演舞で和太鼓を叩いていたチームがあった。あまりにも生演奏がかっこよすぎて、同じチームの女の子がアプローチしに行っていたほどだ。
よさこいは、やはり上手い人や、特別なことをしている人は目立てば目立つほどモテる。
「太鼓やる人、絶対格好いいのに」
ポツリと口から溢れた。
その時だった。
ドンッと、響いた。
何事か、罵詈雑言を吐き合っていた三人も言葉を止める。視線の先には、上半身を起こしていた東雲さんが、私を見ていた。
「太鼓……叩けたら、かっこいいのか?」
彼の目はキラキラと、光っていた。
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