第十四話 鬼が恋
「『鬼が恋』の振り? そんなもの、いつ作ったのだ?」
深山さんは怪訝そうに問い掛ける。たしかに、この二日間ほぼ寝ていたのだが、布団の上とてやれることもある。
例えば、頭の中で踊ってみたり、手足を動かしてみたり。
子守歌として春宵さんが歌うのを聴き、起きている時は口ずさんで歌詞とリズムを叩き込んできた。
「正しくは、軽く考えたのでここで見せたいなと」
まずは、よっこいしょと立ち上がる。
「お岩さん、歌お願いします」
「勿論だよ!」
総踊りに『鬼が恋』しようと思ってからずっとお願いしていたので、お岩さんは嬉しそうにひゅるるんと空中を一回飛び跳ねる。
「では、まず、
私は自分に号令をかけて、足を肩幅に開き、顔前に腕でばってん印をつくる。
「いっちょ歌うは、美しき化け提灯お岩の『鬼が恋』」
お岩さんはさらりと前口上を述べた後、その歴史を感じる重みのある声で歌い始める。
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ああ月歌うが 恋の歌
山は轟き 角は折れ
鬼の心 どどんがどん
焦がれ焦がれて どどんがどん
ああ鬼が恋 鬼が恋 君が恋
ああ鬼が恋 鬼が恋 君が恋
ああ見上げりゃ 星がいた
月も霞む めんごさよ
垂れお目々に どどんがどん
一目奪われ どどんがどん
ああ鬼が恋 鬼が恋 君が恋
ああ鬼が恋 鬼が恋 君が恋
ああ鬼が恋
月に隠れた星を追う
ああ鬼が恋
風に愛歌 手に角を
ああ鬼が恋
月におり星わらう
ああ鬼が恋 鬼が恋 君が恋
ああ鬼が恋 鬼が恋 君が恋
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基本的には繰り返しの振り、腕の振りはいれつつも、左右に同じステップを繰り返す。
難しい動きは一切使わず、誰でも出来るように、動きは大きく見えるように。
一つ一つ丁寧に積み上げていった。
どどんがどんのところは、太鼓を叩くをような動きにしてみた。
鬼が恋を繰り返す時は顔を手で隠し、二段階に分けて座り込み、君が恋で手を開きながら立ち上がる。
かくれんぼをイメージして入れてみたのだが、結構可愛いと思っている。
最後まで私も歌いながら踊りきる。
特に掛け声の部分は声を大きくして、わかりやすくメリハリをつけてみた。
前世ぶりの振り付けだったが、自分が予想していたよりも良いものが出来たと勝手に自負している。
「どうですか?」
私は真っ直ぐに三人の目を見て、意見を待つ。自信はあるが、どんなにボロクソに言われても嬉しい。
お岩さんは、他の二人の顔色を窺う。
特に終始険しい顔をした深山さん。どういう言葉が出てくるのだろう。その不機嫌そうにへし曲がった重い唇を開こうとした時だった。
「良いと思う」
正に鶴の一声。深山さんは驚いた顔をした後、すぐに口を噤む。そして、お岩さんは「私も好きだよ」と、優しく賛同した。
「何か、改善点とか、あったら……」
「一白が用意したのだ、足掛かりには十分だろう。私は
春宵さんの言葉に、深山さんは遂に口を固く閉ざした。
たしかに、認められて嬉しい、嬉しいが。
「一白、次は何を決めよう」
春宵さんの美しい微笑みに、私はこの矛盾する気持ちを飲み込んで、「そうですね、音楽どうしましょうか」とぎこちなく笑った。
勿論、こんな始め方をして、簡単に上手くいくはずはない。
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