第十二話 骨


「骨?」

「踊りや音楽、服。それはあくまで肉や内臓、皮膚でしかない」

 例え話なのだろうか。唐突な切り口に、私は上手く言葉を返せずにいた。

 骨、肉、内臓、皮膚。まるで生き物を作るかのような口振りである。


「何が足りぬと思う、一白」

 私は再度問われて、今一度文字へと視線を戻す。砂の上に書かれているのは、春宵さん曰く骨以外に該当するらしい。では、骨は、生き物にとってどういうもの・・・・・・なのか。


「……あっ!」

 骨は、どんなものだ。私たちの身体にあり、しっかりと私たちを支える存在。

まだ、ぼやけてわからない。こういうときは、を使った言葉を考えればよいと、受験時に塾で習った。

 骨、例えば家の骨組みというのは、柱などの支えにもなり、壁や床の形を作る基礎になる。

 よさこいの土台、よさこいを支え、よさこいの形を決める基礎。

 私は今、ハッと顔を上げた。


「コンセプトがない」

 作品よさこいを作るのに、一番大切なを、私はすっかりと忘れていた。

 ただよさこいをすると行っても、よさこいというのは千差万別。鳴子を誰か一人持っていれば、よさこいというも聞いたことがある。

 どういうものを、踊りたいのか。どういうストーリーを伝えたいのか。

 よさこいにおいて、一番楽しくて面白いところが、抜け落ちていたなんて。

 正直、これは反省すべき恥である。


「こんせぷと?」

 春宵さんの不思議そうな声に、私の背中から冷や汗が流れる。

 前世の言葉を、つい使ってしまった。


「えっと、骨幹とか、指針とかそういう意味の言葉です」

 なんとか取り繕おうと、言葉自体には触れないように説明する。春宵さんは私の説明を聞き、嬉しそうに目を大きく開いた。


「なるほど、陽本国ひのもとのくにの言葉だったか。流石だ、一白。良く気付いた」

 なんとも満開の桜を思い出させるような、美しく朗らかな笑み。意図せず勘違いさせてしまったことに罪悪感を覚えつつも、私は訂正せず「ありがとうございます」と頭を下げた。ただ、足りないものが分かったとはいえ、次の問題がある。


「でも、どんなコンセプトがいいか……」

 このをどのようにするか。今後のよさこいをやるために、とても重要なことを決めねばならない。

 例えば、前世で見たのは、海の雄大さを表現したり、大正ロマンの恋人達の悲恋を演じたり。そういう何をテーマによさこいを作るのか。


 しかも、今回はよさこいとはいえど、百鬼夜行が主題ではある。それをどう絡めるのか。一つ悩み始めると、あれもこれもと思考が絡まり始めていく。

 思考が煮詰まりそうと思い、縋る気持ちで春宵さんを見上げた。


「一白、難しく考えすぎてるのだろう」

「難しく?」

「ああ」 

 春宵さんは、大きな手で優しく頭を撫でる。


「良いか、骨は日に日に成長するものだ」

「……後から修正が効くってことですか?」

「方向だけを定め、骨を育てつつ、手心を加えるだけという事だ」

 漠然とした例え話だが、基礎的な軸だけを決めて、その軸は守るために方法を変えればいいと、ふんわりと理解する。


「まずは、小さく簡潔な内容にしよう」

「小さくですか」

 私の返答に、春宵さんは頷く。


「ああ、我としては、鬼だけではなく『月陰国の皆が参加できるもの』にしたい」


 真剣な眼差しから、出された案。私は大きく目を見開き、思わず大声で賛同した。


「それ、とーーても大事です!」



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