第十一話 枯山水の庭
「まだ、病み上がりだ。ゆっくりせねば」
心配そうに、私を見下ろし、布団の方へと手を差し向ける。
「す、すみません。目が覚めてしまって、それに……」
「
「は、はい……自分が提案したので」
小さく頷くと、春宵さんは「それならば、一緒に作戦会議でもしよう」と言いながら、廊下から躊躇無く真っ暗な庭に降りた。
「一白、この砂の模様は見えるか?」
「正直うっすらと」
「そうか、ならば」
パンパンッと、春宵さんが手を叩くと、呼応するようにカラカランと音が聞こえた。何事かと思えば、庭を囲んでいた灯籠に赤紫色の炎が灯る。
あまりにも急な怪奇現象であったため、私は驚きのあまり息を止めて、身体をビクッと跳ねさせた。
「すまぬ、驚かせたな。今日の御庭番に火を灯してもらったのだ」
「御庭番さん……あの、ありがとうございます」
やはり偉い人の家だから、警備も強固なのだろう。まさかのお手煩いをさせてしまったと、私はすぐに空を見ながら礼を言い、ぺこっと頭を下げた。その声が届いたのだろう、遠くから小さく「にゃあ」という鳴き声が聞こえた。
「気遣いできるのは、素晴らしいな。流石、私の愛しい一白だ」
「私は春宵さんとは違い、雇い主ではないので……」
私は苦笑いしながら、春宵さんの言葉を聞き流す。それよりも、庭が見えて何をするのだろうか。
すると、春宵さんは庭の隅にあった竹箒を手に取って、ずかずかと枯山水の中に入っていった。
そして、美しい川の模様の上に
「……えっ!?」
私が声を出した時には遅く、春宵さんは「よさこい」という文字を砂に大胆に刻んでいた。
「一白、どうした? 字が見えぬか?」
「いやいや、な、何してるんですか!?」
「何って、文字を書いているが」
文字を書くならば紙や古布で良いはずなのだ。少なくとも、こんな見事に整えられた庭に書くことではない。
「怒られちゃいますよ!」
「ははっ、気にするでない。雇っている庭師が毎日直している。問題なかろう」
朗らかに笑う春宵さん。やる事なす事、あまりにも大胆過ぎて、私は既についていけない。
「それに深山とは、いつもこうして意見会議してるからな」
常に自然体のまま話す春宵さん。
「さあて、書いてしまったし、早速会議をはじめるか」
彼の楽しそうな話し声に、私は心の中で明日庭師さんに土下座しようと心に決め、会議を始めた。
とりあえず、まず必要な物を書き出していく。
「まず、音楽と振り付けは必要ですね」
「踊るならばそうだろうな、服装はどうする」
「衣装も! あと、鳴子は絶対ですね」
「鳴子の詳細は後で詰めよう。やはり、練習するためには場所がいるな」
音楽、振り付け、衣装、道具、練習場所……。
他にも細々とした必要な物が、春宵さんによって私の中から引き出され、結構な文字が庭に書かれていた。
「必要なものはこれくらい、ですかね」
私の頭から出せるモノは、全て絞りきったと思う。恐る恐る春宵さんに声を掛けるが、彼はじっと庭の文字を見つめながら、竹箒をくるりと回していた。
二回転、三回転。
こういう時の沈黙は、酷く緊張する。
何回転かした後、竹箒の動きが止まった。
「我が思うに、一番大切なモノが抜けておらぬか」
「え」
意外な指摘に、私は目を見開く。一番大切なもの。私はもう一度文字を眺めた。
しかし、やはり過不足がないように見える。なにが、一体、足りないのか。
焦りからキョロキョロと文字を何往復する私に、春宵さんは傍までくると、私の頬に手を当てた。その手のひらに促されるように、視線を上に向ける。
視線の先には、春宵さんが優しく微笑んでいた。
「一白、物事を進めるには、必ず
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