無力

「ぅ………………?」

 

 とろんと蕩けたような目で淫魔を見つめる先輩。

 

「先輩!?しっかりして下さい!!」

 

 すぐさま駆け寄って目を覚させようとする、しかし

 

「ああもう、うるさいわねぇ。ちょっとそこで黙って転がってなさい」

 

「きゃ!?────むぐっ?!?!」

 

 体をリングのようなもので縛られ、口枷のようなものを付けられる。

 バタバタと暴れるがただ拘束が強まるだけだった。

 

「ほら、こちらにおいで」

 

「………………………♡」

 

 ふらふらと淫魔に近づいて行く。

 まるで、灯りを見つけた虫のように。

 

「んふふ、随分と可愛らしい子を捕まえられたわ。────鮫、あんたはさっさと本部に帰って。ここから先は男子禁制よ」

 

「まーたコレクション増やすつもりか…………。ちゃんと最後まで面倒みろよ?こっちだって処理するの大変なんだからな」

 

 処理────とても穏やかではない単語が聞こえて私はさらに抵抗を激しくする。

 だかしかし拘束はびくともせず、己の虚しさと無力さを加速させるだけだった。

 

「んー?そんなにこの子が大事なの?でも残念、この子はもう私のもの。うふふ、貴方の魔力はどんな味なのかしら」

 

 先輩の腰を抱き上げ、そのまま私に見せつけるように────深い口付けを交わした。

 

「っっっ〜〜〜〜!!!♡♡♡♡」

 

こちらまで聞こえてくる水音。

それに合わせてビクビクと痙攣する先輩。

そして、それらを見ているしかない私。

 

「ん〜!とてもおいしいわぁ。少しえぐみがあるけど、それがアクセントになっててとっても私好み。ほら、まだまだあるでしょう?」

 

 時折息継ぎをしながら淫魔と先輩はディープキスを重ねていく。

 だんだんと強張っていた先輩の体から力が抜けていき、力無く震えるだけになった時、淫魔はディープキスをやめた。

 

「ふにゃぁ♡へっへっへっへっ.........♡♡♡♡」

 

「ふふ、ワンちゃんみたいにペロンと舌を出しちゃって…………」

 

「あ゛♡あ゛ッ♡あ゛ッ~~~~♡♡」

 

「そんなに舌弄られるの気持ち良いの?すっかり敏感になったわねぇ」

 

 口から間延び出た舌を指でカリカリされて悶える先輩。

 芋虫のように這いつくばって惨めな抵抗をするしかない私は、ただただ泣きそうな程悔しかった。

 

「あとは『淫紋』を付けて………ってあら?もう付いてるじゃない。わたしの子たちが先に目を付けてたのかしら。まあでも子の物も親のものみたいな物だし、貰っちゃいましょう」

 

『淫紋』

────それは淫魔に敗北し、屈服した証。


 そして所有者が性的興奮を感じるたびに成長していく。

 そして完全体になった時、淫魔の奴隷となることが確約される契約のようなものである。

 

 なぜそんなものが先輩の体にあるのか。私は理解できなかった。

 先輩が今までかたくなに肌の露出を避けていた理由はこれだったのだろうか。

 

「ふふ、まだまだ小さな『淫紋』だけど、魔力を流しながらギュってしてあげると.......♡」

 

「ほお゛ォ!?♡♡♡」

 

 淫魔によって破られた衣装から見える下腹部を淫魔が強く押すたびに先輩は力なく震え、痙攣する。

 

「うんうん、上手く排卵だせてえらいわぁ。これで『魔獣』との交尾をつつがなくできるわね。さて、最後にこの子の記憶をすべて改ざんすれば終わり。今度はちゃんと壊れないように飼ってあげるから心配しないでねぇ」

 

「ん~~~~~~!ん~~~~~!」

 

やめて

まって


 その叫びは全て押しこめられて、先輩の頭に手が当てられた。


その瞬間

 

「っっっっっ!?!?!?!?!?」

 

 まるで熱したやかんに触れた様にすぐさま手を引っ込めた。

 

「なによ、なんなのよこの記憶は.......!?私?こんな無様に小娘に負けるのが私!?そんなわけない!私たちはこんな奴に負けてない!.........じゃあ何?なんなのよこの記憶は?!........違う、違う、違う!」

 

 淫魔はうわ言のように意味不明な言葉を叫びながらどこかへ飛び去って行ってしまった。

 今起きた現象に理解が追い付かずぽかんとしていると、私を縛っていた拘束が解けた。

 

「..........先輩っ!」

 

 そしてすぐさま今だにビクビクしている先輩のもとへ向かい、抱き上げる。

 今起きたことを考えるより先輩を救助することが先決。そう思い、私は『協会』へ急いだ。

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