過去

────先輩は孤児である。


 その話を聞いたのは約1か月前、『協会』で働いている職員さんからだった。

 

「........あまり、こういう話はしちゃいけないんだけどね」

 

「彼女は、森で拾われたんだ。『魔獣』と戦闘したのかあたりには血痕と魔力の残滓が残されて、その中でただ一人座り込んでいたのを見つけた魔法少女たちが『協会』に連れていき保護した」

 

「無茶苦茶な戦闘痕から彼女が戦いに慣れていないことは明白で、つい最近魔法少女としての力に目覚めたのだろうと『協会』は推測し、尋問官の私がなぜ森の中にいたのかを訪ねた。

────しかし、彼女は答えなかった。どこに住んでいるのか、家族はいるのか、なにか連絡機器は持っているのか、それらの質問すべてに彼女は黙秘を続けた。最後に帰る場所はあるのか尋ねたんだ。そして、初めて小さな声で

 

『.......ない』

 

と私の質問に答えてくれたんだ。その後は『協会』の偉い人たちと相談してね、彼女が暮らす場所を『協会』が提供しようという話になり、『協会』内の施設で暮らしてもらうことになった。ただ無償というわけにいかなかったから彼女がもらう報酬の一部を差し引く形にはなったけどね」

 

「魔法少女として活動し始めた彼女はあまり周りとなじめてなくてね。あまり喋ろうともしないし毎日滝行に行っていて、ちょっと周りから浮いていたから」

 

「────けど、君が来てくれた。あの一切周りと関わろうとしなかったあの子が自分から話しかけに来てくれる子なんて君が初めてだったんだ」

 

「だから、あの子を頼んでもいいかな。最初彼女と話したときにどこか危うさを感じたんだ。そして、私にはそれを止めることができないこともね。けれど、君ならきっと彼女を止められる。長年魔法少女を見てきた私の目に狂いはないよ」

 

 そう頼まれて、私は元気よく答えた。

私にはよく先輩の危うさはわからなかったけれど、きっとなんとかなるだろう。

そんな楽観的な予感を信じて。

 

 そしてその報いを受けるのは、かなり早かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????この俺が、こんな小娘たちに負けるなんてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「これで終わり!はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 私と先輩で四天王の一人であるサメ怪人シャーク侯爵を追い詰め、そしてとどめを刺す。

その瞬間

 

 

 

 

 

「────情けないわねぇ。その程度の魔法少女二人に負けるだなんて」

 

 

 

 

 

 何者かが私の剣を弾いた。

 

「っ!?あなたは誰!?」

 

「私ぃ?淫魔のサキュバスよ。この情けない鮫と一緒に四天王をやっているわ。ほら、さっさと立ちなさい。帰るわよ、ここで倒されると困るの」

 

「逃がさない!」

 

「じゃまねぇ。────ほら、『魅了』」

 

「っ!さやか!」

 

 刹那、背中から衝撃が走る。その主が先輩だと知った時にはもう、遅かった。

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